研究課題/領域番号 |
15J10206
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今泉 允聡 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 統計学 / 計量経済学 / 構造推定 / ノンパラメトリック / セミパラメトリック |
研究実績の概要 |
動的離散選択モデルはエージェントの未来志向・動学的最適な意思決定を表現するモデルであり、経済主体の将来志向的な行動を表現したデータを解析する際に多く使われている。そのベースとなっているのはマルコフ決定過程と呼ばれる数理モデルであり、ロボット工学や制御工学など幅広い分野で使われるツールと共通の技術を用いている。 本研究はまず、多次元な動的離散選択モデルが多くの計算時間を必要としている問題について、関数近似を用いたアルゴリズムを提案した。その手法は学振採用以前から進めていた研究であり、幾つかの学会で発表し論文賞を得ている。それらを論文にまとめて、国際専門誌への投稿を行った。 また、ノン・セミパラメトリックモデルについて、幾つかの研究を行った。ノン・セミパラメトリックモデルは統計モデルのクラスであり、関数の形で表されるパラメータによって特徴づけられる。動的離散選択モデルは価値関数というパラメータを持っており、これらのクラスに含まれる。動的離散選択モデルを用いたデータ解析を行うにあたり、その統計的精度を向上させるにはこれらの統計モデルに関する理論・手法が必要であることから、これに関連する幾つかのトピックについて研究を行った。 まず、セミパラメトリック効率性を達成するための汎用的手法を開発した。関数の形で表されるパラメータがある時に、これが興味あるパラメータの推定の効率性に与える影響を最小限にする研究を行った。また、複雑なデータ構造を解析する為のノンパラメトリック推定について幾つかの研究を行った。動的離散選択モデルのような構造を持つモデルを扱う際に、ユークリッド空間ではない空間上の写像を推定する技術が必要になるため、その手法を開発した。これらの研究はそれぞれ論文にまとめ、投稿を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は研究の第一段階において、動的離散選択モデルの状態空間が広大になる際に計算時間が膨大になる問題について、効率的な解法を提案することを目的としていた。その目的について、本研究は確率近似法という求根手法を用いて、動的離散選択モデルの価値関数を効率的に推定する方法を開発した。この結果は、応用である実証研究に直接貢献する事ができる結果であると考えている。 また本研究の第二段階において、ノン・セミパラメトリックモデルに関する幾つかの問題提起とその解決案を提案した。これは、構造推定などの複雑な統計モデルにおいて推定の効率性が下がる問題に着目し、かつその一般的な解決案を考えたもので、今後の本研究の方針を定めるものとなっている。 年度を通じてのアウトプットの面では、上記の動的離散選択モデルの解法の研究とノン・セミパラメトリック統計理論の二つのテーマに取り組み、国際・国内学会における発表、論文の国際専門誌への投稿などを複数行い、着実に研究成果をあげている。さらに、2016年の日本統計学会では研究発表が優秀発表賞を受賞し、研究の質に対して高い評価が与えられている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の一年目において、動的離散選択モデルのための高速解法を提案する、という第一段階の目的が達成された。したがって、研究の第二段階である、ノン・セミパラメトリックモデルの理論を用いた推定精度を向上させる研究を推進する。本研究はこれまでその第二段階に関して、一般的なモデルへの手法を開発してきたが、それらはまだ理論的な精緻化や先行研究との差別化が十分には為されていない。また、一部の手法はデータに強い制約を課していたり、実用にあたって多くの調整パラメタを必要とするなど、汎く実用的な手法になっているとは言い難い。加えて、応用に直接貢献する形にはなっていない。 これらの状況を踏まえて、今後の研究においては、(1)提案された推定手法をより実用的な道具を用いて使える形に落としこむ、(2)実証的な応用を考えて、既にに開発した手法をもとに具体的な応用へ特化させていく、の二点を行う。具体的には、これまでの本研究の推定量は、関数や作用素を基底関数で表現する形で行われていたが、基底関数の選択が解析の結果に影響することが不便であった。よって、特定のウェーブレット基底やカーネル関数を用いた手法に変換することでその不便さを解消する。また、それらの手法に関して理論的解析を行う。これにより、基底や調整パラメータの選択をするコストが減った推定量を提案することが出来る。また、これまで開発した一般的な手法を応用し、動的離散選択モデルなどの具体的に特定したモデルに対する手法の開発を行う。
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