研究課題/領域番号 |
15J10209
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
紺谷 由紀 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 去勢 / 後期ローマ帝国 / ビザンツ帝国 / ローマ法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、4-10世紀の後期ローマ・ビザンツ帝国における宦官・去勢者の実態や社会における位置付けを試みることである。
平成27年度の成果として、第一に、従来取り組んでいた所謂「ローマ法大全」以外の規範史料分析が挙げられる。この中には4世紀から10世紀の教会会議で制定された教会法、そして9-10世紀のレオン6世治世に編纂された『バシリカ法典』やその欄外註、並びに同帝の新勅法が含まれる。これにより、去勢慣行・去勢者へのキリスト教側の理解、そして教会と皇帝の立法における相互作用を把握することができたのであり、教会法の検討は、社会における去勢の位置付けを多層的に理解する上で非常に重要であると考えられる。二点目として、研究実施計画として挙げた帝国社会における去勢者の活動、彼らに対する評価についての調査である。具体的には、パッラディオスの『ラウススの歴史』や、著者不明の『聖アルテミオスの奇跡譚』のようなキリスト教の聖人伝、奇跡譚を中心とした史料を読解し、帝国宮廷以外の場所で存在する去勢者や、帝国内で行われる治療のための去勢手術について多くの事例を収集することができた。更に、去勢者の身体的特徴である生殖器の損傷、去勢手術の問題に関して、2世紀から7世紀にわたる医学書の研究に取り組んだ。未だ分析は途中の段階であるが、いわば身体的特徴は、去勢者を定義付ける上で最重要の要素であり、この分析は本研究の前提として意義があると言える。
国外調査に関しては、イングランドに滞在し、オックスフォード大学図書館において国内では手に入らない一次史料、二次文献の収集を行った。また同大学のアシュモリアン博物館、ロンドンの大英博物館に赴き、後期ローマ、ビザンツ時代の考古学資料を実際に目にすることで、当時の帝国の物質文化を知る上での貴重な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究内容に関しては、当初の計画とは若干異なるものの、4-10世紀の後期ローマ・ビザンツ帝国における宦官・去勢者の実態や社会における位置付けを明らかにするという、本研究の目的から逸脱したものではない。 また国外調査、国内での口頭報告に関しては、概ね研究実施計画に沿って行われている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、引き続き、帝政後期の社会における去勢・去勢慣行について研究を進める。上で挙げたように、医学的な観点からも調査を進めていくが、その際には、研究課題として挙げた1世紀より前の医学的著作についても検討していく必要があると考えている。そしてこれまでの法史料の分析から得られた知見をもとに、去勢者に関する個々の史料の言及について分析を行う予定である。
更に、交付申請書に記載した第二の課題であるユスティニアヌス1世帝治世以降のビザンツ社会の去勢者についても随時検討を行いたいと考えている。この時期の去勢者に関しては『聖アルテミオスの奇跡譚』やアエギナのパウロス『医学要覧』等既に取り組んだ史料もある。加えて「研究実績の概要」で述べたように、教会法、皇帝勅法の領域に関しては9世紀までの分析を行っているが、当時の社会状況、立法行政や教会会議のシステムなど依然として自身が把握ができていない部分も多く、そのような背後関係について更に考察を深めた上で分析を進める必要があると考えている。そしてその上で、それ以前の研究の成果に基づきながら、上記の立法の背景や、他の叙述史料の分析に取り組んで行く。
この間、国外調査は引き続き行い、国内では入手が困難な一次史料・二次文献の収集に努める。また、国内外での論文・口頭での研究報告を積極的に行い、幅広い専門の研究者からの批判・助言を受け、今後の研究に役立てていく。
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