研究実績の概要 |
本研究は犬リンパ腫の病態において、通常型CD44(CD44s)およびそのバリアントアイソフォーム(CD44v)を発現する細胞が薬剤耐性に関わり、再発や予後の悪化に繋がる事を証明することを目的としている。本年度は臨床例におけるCD44s, CD44vの検出とその予後評価とCD44sおよびCD44v発現犬リンパ腫細胞株の作出および性状解析を行った。 まず犬におけるCD44v発現量を相対比較したところ、犬の高悪性度B細胞性リンパ腫ではCD44v3, v6, v7の発現量が高い症例群が存在し、それらでは治療奏効率の低下、無増悪生存期間および全生存期間の短縮が認められた。これらの結果からCD44v3, v6, v7が高発現の症例は予後が悪いことが示唆された。またCD44v高発現症例のリンパ節では既存の抗がん剤耐性に関わる遺伝子であるABCB1, ALDH1, MGMT, MVP, SOD2の発現量に有意な差は存在しなかった。 続いて臨床例におけるCD44vパターンの発現を探査した。バリアント領域を増幅するプライマーを設計し、配列決定したところ複数の配列を得た。これらの配列は健常犬とリンパ腫犬では異なるパターンを示した。これらはヒトやマウスで発現しているCD44v3-10などと異なり、犬では比較的短い配列が発現していることがわかった。 さらにCD44v3, v6, v7の全ての発現量が高い4症例と発現量の低い5症例のcDNA マイクロアレイ解析を行った。これによりCD44v高発現症例ではESRP1遺伝子の高発現を認めた。その定量解析のため、CD44v高発現16症例、低発現31症例のESRP1遺伝子発現量をReal-time PCRで解析したところ、CD44v高発現症例で有意に高い発現量を認めた。これらの結果より、CD44vの発現調節はヒトやマウスと同様にESRP1が担っている可能性が示された。
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