研究課題/領域番号 |
15J10324
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小久保 充 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | クエーサー / ブラックホール / 降着円盤 / 変光観測 |
研究実績の概要 |
平成27年度は先行研究で偏光分光観測がなされていたクエーサー(高光度活動銀河核)に対して木曽シュミット望遠鏡で1年間の多バンド紫外-可視光モニター観測を実施した。その結果、クエーサー紫外-可視光域の変動成分スペクトルの形状が、偏光成分のスペクトル形状とは一致しないことを示した。本研究により、一般に考えられているクエーサーの光度変動および偏光を生じさせている物理機構の理解に修正を加える必要があることが明らかになった。スペクトル形状の不一致を説明するシナリオとして、1.クエーサーにおける偏光は、降着円盤放射の電子散乱で生じているのではなく、未知の偏光生成機構により生じている、または、2. 光度変動は降着円盤内縁部における降着円盤不安定性によって生じているため、変動成分スペクトルのカラーが非常に青くなっている、というシナリオを提唱した(Kokubo 2016, PASJ, in press)。 上記のシナリオの妥当性を確認し、変動成分スペクトルと偏光成分スペクトルの間の関係をより詳細に解明するため、偏光成分の時間変化を調べる観測を広島大学東広島天文台かなた望遠鏡で開始した。
上記のクエーサーのモニター観測と並行して、口径8.2mメートルすばる望遠鏡の広視野カメラHyper-Supreme Cam (HSC)の戦略枠(SSP)サーベイ観測データを用いた、低質量降着率ブラックホール降着流を持つと考えられる低光度活動銀河核の光度変動の統計的性質を調べる研究も検討を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すばる望遠鏡やVLT望遠鏡を用いた偏光分光スペクトルの時間変化の観測時間が獲得できていないが、その他の望遠鏡を用いたモニター観測データ、およびアーカイブデータを併用した研究を進めており、全体として順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
Kokubo 2016で議論したクエーサーに対して、かなた望遠鏡での偏光測光モニター観測や木曽シュミット望遠鏡での測光モニター観測を継続するとともに、すばる望遠鏡やVLT望遠鏡を用いた偏光分光観測を提案する。 クエーサー紫外-可視域スペクトル中の偏光成分の数10日-数100日スケールでの変動を観測することで、ブラックホール降着円盤周辺のどこで偏光が生じているのかという点と同時に、より根源的な問題である光度変動の起源についても、モデルに依存しない形で制限を与えることができると期待している。
さらに、HSC-SSPサーベイの観測データの解析を行なう。 HSC-SSP Ultradeepサーベイの新しい測光データと、すばる望遠鏡Supreme-Camによって過去に撮られた測光データを比較することで、低光度活動銀河核の光度変動に対して我々のこれまでの研究(Kokubo et al. 2014, ApJ; Kokubo 2015, MNRAS)と同様の解析を行い、クエーサーと低光度活動銀河核の光度変動の性質の比較を行うことで、質量降着率の異なる活動銀河核の間での連続光光度変動の違い(特に紫外域での光度変動振幅の大小)を探り、 光度変動モデルとしての「再放射モデル」を検証する。
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