活動銀河核の中でも特に明るい天体であるクエーサーの可視域スペクトル中の光度変動成分および偏光成分に関する先行研究において、これら2つのスペクトル成分はともにクエーサーの中心エンジンである超巨大ブラックホール降着円盤の放射スペクトル形状を直接反映する観測量であるとされていた。ところが、本研究の昨年度の成果によって、クエーサーの光度変動成分スペクトルおよび偏光成分スペクトルは実際にはまったく異なるスペクトル形状を持っていることが明らかになった
本年度は、上述の偏光-変動成分スペクトル間のスペクトル形状の違いが生じる原因を特定するため、木曽シュミット望遠鏡でモニタリング観測しているクエーサーのうちの1天体である3C323.1 について、過去の可視光偏光観測データを文献やデータアーカイブから収集することで、3C323.1の偏光成分(偏光度、偏光角、偏光フラックス)の数年タイムスケールの時間変動を調べた。結果、偏光角が4-6年タイムスケールで時間変動を示していることから、偏光成分の原因となっている電子散乱領域がブラックホール降着円盤の極近傍に存在している、という観測的制限を得た。さらに、偏光フラックススペクトルの短波長側のスペクトル形状が時間変化を示すことから、降着円盤と電子散乱領域の中間領域に時間変動する構造を持つ吸収体が存在しており、降着円盤放射が電子散乱される前に特定の波長域の光が吸収を受けているというモデルを提案した。これらの結果は、学術誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (MNRAS)で発表した。
|