研究課題/領域番号 |
15J10325
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
牧田 久美 京都市立芸術大学, 美術研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | テキスタイルデザイン / GHQ繊維政策 / 日本繊維産業復活 / プリント服地 / 綿プリントブーム |
研究実績の概要 |
27年度は論文執筆にあたって事実関係の確認のための学術調査に徹した。本研究のテーマである戦後1945年から1955年の日本社会の洋装化に伴う新たなテキスタイルプリントデザイン誕生に大きくかかわった終戦直後のGHQの繊維政策を、デザインの観点から精査していく中で、最大に成果が上がったと思われるのは、ワシントンの米国公文書館におけるGHQ/ESS(経済科学局)資料の閲覧とニューヨークのクーパー・ヒューイット国立デザイン博物館でのボーグその他、世界的服飾雑誌の創刊号あるいは研究領域年代間の閲覧・撮影であった。双方とも担当官に非常に恵まれたことと、特に公文書館資料については事前の1か月間の頻繁なメールでの問い合わせにおいて、該当資料の絞り込みや記録の保管場所を限定し請求できたことで、10月初旬、国立デザイン博物館滞在と合わせて10日間という短期間ではあったが非常に効率よく閲覧および複写、データ化する事ができた。同館の詳細な記録は個人的な書簡にもおよび人間関係を含むESS内部事情の資料の発見があり、研究対象であるGHQ/ESSの繊維課や貿易商業課の人的活動あるいは輸出先である米国内における日本の繊維製品の動向を具体的に捉えなおすことが出来た。この時平行して行った日本の国会図書館、立命館修学館におけるGHQ/ESS資料検索も公開非公開資料の限定などに役立った。 その他11月、米国公文書館帰国後の東京の国会図書館での追加調査では、占領終了後の日本繊維産業の米国向けサンプルブック『Textile Japan』 や、その他「月刊繊維」など業界雑誌も新たに見つけることができ、繊維産業サイドからのダイレクトな問題点を掴むことが出来るようになった。 これらの成果からもう一歩踏み込んだ資料の特定のため現在、米国公文書館と交信中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本論文は2部仕立てで、第1部 占領政策の中で ―GHQ日本占領関係資料から見る―、第2部 日本の繊維政策-国内の爆発的繊維需要―から構成され、第1部は3章7節、第2部は4章からなっている。 第1部に於いては先年の公文書館での調査により、戦後の絹・綿貿易政策の中で今まで埋もれていたGHQ経済科学局貿易課や繊維課と日本の意匠図案家との接点を見つけることができ、GHQの日本の洋風デザイン育成の事実関係の新たに展開を見た。GHQ経済科学局貿易課や繊維課の日本絹製品販売における大々的なキャンペーンの存在や販売品目の充実したサンプル集の制作、またその過程のおけるデザイン育成の実態等の具体的な資料を基に予想に反して低調で終わった絹貿易の顛末とその意義を考察できるようになった。この時、輸出後の日本製品のUSにおける商品展開までを視野に入れることができた。 また戦後日本の繊維産業の綿加工貿易の世界市場への復活に際して、その低価格やそれに対応する人権問題あるいは意匠盗用などの多くの問題を討議した英米合同綿使節と全日本綿紡績協会の会議内容の詳細なレポートを英国側から見つけることができ、世界市場での日本の非常に問題をはらんだ立ち位置など予想以上の状況把握が可能となった。 論文後半2部に於いては戦後GHQ経済科学局貿易課の指示により結成され、その後、日本のテキスタイルデザイン発展の中心的役割を果たした日本図案家連盟の結成当時の手書き会員リストや創刊当時の会報などが関係機関から見つかりその発展の詳細を内部的な深い視点からとらえることができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は特別研究員奨励費制度によって、ワシントン米国公文書館や、ニューヨークのデザイン博物館等、広範囲での学術調査の実施が可能となり、多くの貴重な情報収集の成果が得られた。これにより研究テーマの重要な背景である占領初期の絹貿易あるいは綿加工貿易の国際的な関係や展開などの内実をより深くとらえ直すことができた。またGHQ経済科学局貿易課や繊維課と日本の意匠図案家の新たな関係、米国における日本絹製品販売における大々的なキャンペーンの存在や販売品目の充実したサンプル集の制作など具体的な資料の検討によりさらなる進展部分の研究調査を予定している。 またデザイン的な内容では、戦後の染織デザインを牽引していった日本図案家連盟のなかでも、より先鋭的にデザインをとらえ、記録的な綿プリントのヒットを更新していったグループ「A」(エース)に焦点を当て、彼らがどのように和装図案からプリント服地図案に傾倒していったのか、その経緯の中に異文化間の融合と反発の実際を見ていきたい。この時伝統的意匠や技術はどのような役目を担ったかについても考察する。 これら当研究論文後半部分の執筆とともに本年度は、学会発表と論文投稿、関係機関の研究会での発表と研究紀要掲載を目指す。また研究の性質上、資料の展示(一般公開)も想定し 広範囲で立体的な問題把握による課題研究論文の完成を目指す。
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