2017年度は、前年度までに英国およびイランで収集した史料およびデータの分析と同時に、イスラーム美術史研究の中心地である北米における成果公表、および人脈拡大に努めた。具体的には、2017年8月17日より2018年1月15日まで、研究指導委託制度を利用し、 ハーヴァード大学のAga Khan Program for Islamic Architectureに訪問学生研究員の身分で滞在した。受け入れ教官である同プログラムのProf. Gulru Necipogluは、イスラーム美術史のトップジャーナルであるMuqarnasのチーフ・エディターであるのみならず、釉下彩技法が著しい発展を遂げたオスマン朝下のアナトリアの物質文化に造詣が深いことで知られる。彼女の指導を受けたことにより、オスマン朝、サファヴィー朝、ムガル朝という、宗派を異にしながら、いずれも先行するティムール朝期の文化的遺産の上に成立した近世帝国が鼎立した時代の、文学と美術の密接な関わりについて、比較文化史的視座で分析することが有効であるのではないかという気付きを得た。滞在中は、主に、ハーヴァード大学Fine Arts Libraryにて、貴重書の複写・閲覧を行なったほか、同大附属美術館にて関連美術作品の調査を行なった。本出張の成果の一部については、2017年11月19日にワシントンDCで行われた北米中東学会(The Middle East Studies Association [MESA])で口頭報告を行なったほか、2017年12月27日に人文社会系研究科教務課に提出した博士予備論文に反映された。加えて、前年度、Muqarnas 34号に受理された論文が刊行されたこと、Orient 52号に発表した論文で日本オリエント学会第39回(平成29年度)奨励賞を受賞したことも、今年度の特筆に値する成果である。
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