本研究の目的は、レゴリス対流による小惑星表面更新の可能性を定量的に評価することである。先行研究では「隕石衝突起源の振動の繰り返しによってレゴリス層(小惑星表面の粒状堆積物)に構成粒子の対流運動が生じ、表面更新が生じる可能性」が指摘されている。本研究では、小惑星表面環境における粒子対流運動のタイムスケールを見積もり、小惑星寿命等の特徴的タイムスケールと比較することで、表面更新の可能性を定量的に評価することを試みた。これまで、 (1)粉粒体が振動を受けた際に生じる構成粒子の対流運動の速度に対する振動・重力の依存性を室内実験で調べる (2)(1)で得られた結果と先行研究のモデルを用いて、隕石衝突に誘発されたレゴリス対流による表面更新モデルを構築する の2点を実施し、(1)および(2)で得られた知見からレゴリス対流よって小惑星表面更新が生じる可能性があることを明らかにした。 平成28年度は、レゴリス対流による粒子移動の最低発生基準を見直し、すでに公表した表面更新モデルの改定を行った。また、(1)で実施した実験内容および改定したモデルを博士論文としてまとめる作業等を行った。一方で、改定したモデルは、日本流体力学会、EGU 2016 General Assembly、48th LPSCといった国内外の学会で逐次発表した。また、研究会「衝突・振動による固体天体表面進化と粉体物理」を開催し、米国Purdue大学で活躍される若手研究者を招き、直近のトピックを交えて粉体物理と天体表層進化の分野横断的な議論を行った。こうした過程を経て、申請者は本研究を「レゴリス対流による小惑星表面更新過程の実験とモデルによる研究」というタイトルでまとめ、学位を取得した。上記のような、より有意義な研究活動の実施したため、当初予定していた系統的減圧実験は実施しなかった。
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