研究課題/領域番号 |
15J10379
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
隠岐 理貴 東海大学, 政治経済学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | カント / 政治哲学 / 共和国 |
研究実績の概要 |
本年度は、カント政治哲学における共和主義的側面を思想史的見地から把握するための研究に従事した。主だった研究成果は以下に示す通りである。 ①フランクフルト大学にて開催された「第十回日独倫理学コロキウム」にてZur Heimatsverbundenheit des Weltbuergers bei Kantと題する口頭報告を行なった(2016年9月7日)。②立命館大学にて開催された日本政治学会にて、「世界市民の郷愁――カントはなぜ故郷を離れなかったのか」と題する口頭報告を行なった(2016年10月1日)。③上智大学出版刊行の共編著『グローバル化時代の人権のために――哲学的考察』のために、「共和国、あるいは人間であるための空間――カントの「甘い夢」とその影」と題する論文を寄稿した。 これらの論考に共通する狙いは、人間が真に人間となるための活動としての「政治」という、報告者が前年度までの研究においてカントの著作から剔抉したモティーフを根底に据えつつ、カント政治哲学における連帯と友情の位置価を明らかにすることにあった。①および②においては、カントにおいて友情は「人間知」や「世間知」といった特殊な知の形式の獲得のための必須条件として機能する側面を有することを明らかにした。②においては、前年度に行った口頭報告をベースに、「哲学者たちは否応なく共和国の実現を夢見る」というカントの言明の含意に、カントにおける言論の自由や彼のフランス革命理解に主眼を置いて分析することで迫った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前項記載の諸論考の執筆、さらには討論参加者や読者からのフィードバックを通じて、カント政治哲学の基調低音を成す、「理性に適合した言語使用を通じた人間の人間化」というモチーフをこれまで以上に明確化するとともに、カント政治哲学のみならず、西洋政治思想史をより深く理解していくための新たな諸着想を得ることができた。その際決定的に重要であったのは、前年度と同様、テュービン大学での在外研究であった。というのも本年度は、前年度より継続して取り組んできた、プラトンをはじめとする古典古代の政治哲学的著作の読解に加え、同地で交流する機会に恵まれたポストモダン思想や精神分析、またホッブズ、スピノザといった17世紀哲学、さらにはマルクスやカール・シュミットといった対象を分析する様々な研究者たちの影響を受けて取り入れるようになった諸視点によって、カントならびに18世紀の政治哲学的諸著作をより多角的に分析することができたからである。研究の進展という点で特筆すべきは、古典古代以来、西洋哲学史、西洋政治思想史において連綿と継承されてきた哲学、政治、友情のトリアーデのより深い理解である。それは、政治をいわば暗黙裡に技術知の問題と見なすがゆえに、政治と哲学が目指してきた善き生から政治を切り離して理解してしまうこと、ならびにそれが招く危険に対し警鐘を鳴らす、忘却されつつあるカウンター・アーギュメントの役割を果たしうるような政治理解の基礎となるであろう。それゆえそれは、採用最終年度となる次年度、より詳細に検討し、精緻化していくべきものである。 以上を総括するならば、本年度は充実した研究環境と成果報告の機会に恵まれたことで、新たな展望を獲得し、テキストの精読、発表、フィードバックの好循環の中で研究を進めることができたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
採用最終年度である平成29年度においては、前項までに記した新たな諸着想を踏まえ、カント政治哲学研究をさらに進展させ、三年間の研究成果の集大成となる諸論文を執筆し、公表していく。それは具体的には、今日の視点から見ると共和主義的原理と自由主義的原理という形で互いに異質なものとして捉えられる、カント政治哲学における諸エレメントが、根本においてはそのようなものではないということを詳細に示していく形で果たされるであろう。このことはまた、古代ギリシア以来、ロゴス、ポリス(あるいはポリテイアないしレース・プーブリカ)、善き生の内在的連関を分析、要請し続けてきた政治哲学の伝統という広いコンテクストのうちで遂行されねばならない。その狙いは、かかるコンテクストのうちで、かかる伝統を成す諸思想家とカントとの差異に着目しつつ、後者の政治哲学的諸エレメントならびにそれらの連関のロジックを浮かび上がらせることである。そうすることで、カント政治哲学の特異性が際立ってくるはずだからである。最終的には、以上の課題を解釈学的に遂行することで、本研究の成果の現代的意義を明確化し、研究の成果を英語単著の原稿として言語化することが具体的達成目標である。そのために必須となる作業として、研究成果はこれまでと同様、国際学会にて適宜発表し、得られたフィードバックを踏まえての新たな視点を適宜論考に反映させ、国際ジャーナルにて公表していきたい。
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