研究実績の概要 |
現在、水酸化反応(2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-)は水の電気分解による水素発生や二酸化炭素還元を行うための電子源として大いに着目されている。人工材料の中では、アモルファス型の酸化イリジウム (IrOx) 触媒が最も高い活性・安定性を併せ持つことが知られており、200 mV程度の過電圧でこの4電子反応を効率的に駆動することができる。一方、MnO2などの3d遷移金属触媒は特に中性pH下においては500から600 mV程度の過電圧が必要である。従ってIrOxを安価な3d金属材料で代替するためには異なる活性のメカニズム、とりわけpH依存性と金属の元素戦略の相関の理解が重要であると考えられる。 本年度では、IrOxの水酸化触媒能がpHに依存せずに約1.45 V vs. RHE(可逆水素電極)で顕在化し、さらにin situ光導波路分光法を用いてその活性の起源が450 nmに吸収極大を持つIr5+に由来することを見出した。この中間体はpH 2,4,6,8,10,12の全てにおいて電位を1.2 Vより正に掃引すると出現し、また、水酸化反応のに電子中間体に類似したH2O2を添加すると、この中間体の出現は抑制された。以上より、この中間体は水酸化反応の律速段階であるO-O結合生成を担うものと考えられ、これらの成果は現在Physical Chemistry Chemical Physicsに投稿中である。 また、上記の電気化学的・物理化学的手法に加え、天然の水酸化酵素:光科学系II、及びその逆反応を担う酵素:シトクロムCオキシダーゼの遺伝情報の調査にも取り組んでおり、既に国際学会等において生体エネルギーバランスに基づく天然酵素の元素戦略について発表をしている。これらの成果は近日中に学術雑誌に投稿予定である。
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