今年度は昨年度までの実験・検証結果をまとめた論文を執筆、学術雑誌のJournal of Geophysical Research: Atmospheres に投稿した。 ここではその論文の結果について記す。文部科学省が公開しているセシウム137の定時降下量観測値を利用し検証したところ、高解像度の解析データを大気モデルの大気境界条件として適用し、かつシミュレーションによって得られた湿性沈着量を解析降水で補正した場合の対象期間における沈着量の合計値が最も観測値に近かった。従来の研究成果で、境界条件やモデルの組み合わせを変えることでどのように再現精度が変わるかが実験され高解像度の境界条件が必要であることはわかっていたが、本研究により、大気モデルにおいて放射性物質の輸送過程を再現する際に境界条件の解像度を上げるだけでなく、さらに観測降水データを差し替えて補正することによって、降水の再現精度そのものを上げることで沈着量の再現精度のさらなる改善が見込まれることを明らかにした。この結果により、降水データ同化など気象分野で発展している手法も十分応用可能であることがわかった。また、関東地方にセシウム137の降下量が多く観測された期間について、モデルで計算した濃度の増加タイミングと観測された空間線量の増加タイミングはほぼ変わらないにもかかわらず、シミュレーションで得られた沈着量と観測された降下量を1日ごとの観測データと比較すると違いが大きかった。これは、放射性プリュームが関東地方に接近したタイミングがちょうど降下量の観測日が切り替わる時間の直前であったため、実験上のプリュームが近づいた時間が実際と1-2時間程度の差でも日ごとで比較した場合に大きな違いとなって表れたと考えられる。このことから、本ケースのように1-2時間程度の違いが重要な場合観測データの不確実性にも注意する必要があるといえる。
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