研究課題
近年、腫瘍組織における癌細胞周囲の微小環境が注目されているが、その詳細は今だ明らかとなっていない。一方、Exosomeと呼ばれる微細な膜小胞は、miRNAやタンパク質を内包する形で分泌されることが報告されており、癌間質相互作用を複雑にしている。すなわち、この癌微小環境中に存在するExosomeの機能を解析することで、癌間質相互作用の新たなメカニズムの解明、および新規診断・治療法の開発につながる可能性がある。本年度では、胃癌における癌間質相互作用の解明、スキルス胃癌の新規診断・治療標的の同定を目標として、以下の通り研究を実施した。前年度までに、癌間質に存在する繊維芽細胞、いわゆる癌関連線維芽細胞(CaF)から分泌されるExosomeが、スキルス胃癌細胞株の浸潤能を亢進させることが明らかとなったことから、Exosome分泌を阻害するRab27b遺伝子のshRNAを恒常的にCaFに発現させる系を構築し、胃癌細胞株の浸潤能への影響について検討した。しかしながら、少なくともRab27bのshRNAによって抑制されたExosomeの分泌阻害は、胃癌細胞の浸潤能への影響が見られなかった。現在、Rab27b以外にExosome分泌に関わるSMPD3のshRNAをCaFに導入した際の影響について検討を行っている。一方で、ヌードマウス胃壁に胃癌細胞を同所的に移植する実験系を応用し、胃癌細胞とCaFを混ぜた状態でマウス胃壁に移植するモデルの構築を行った。胃癌細胞単独で胃壁に同所移植した群と比較して、CaFと同所移植した群では、腹膜播種転移能が亢進する結果が得られた。上述したExosome分泌を阻害されたCaFを樹立し、in vitroでの浸潤能への影響が確認されたのちに、本マウスモデルによる解析を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度に設定した2つの研究計画のうち、③治療・診断への応用については予想通りに研究が進行したが、②Exosomeに内包される分子の同定とその機能解析については、一部進行が遅れる結果となった。原因としては、前年度に見られたCaF由来のExosomeによる胃癌細胞浸潤能への影響に関する結果をより強くフォローするための実験系がうまく進行しなかったことが原因であるが、この点についてはすでに解決方策を組み立てているため、大きく今後の実験遂行に支障はないと判断している。一方で、3年目の研究計画の予定であった、マウスモデルの構築を2年目で達成できたことから、研究計画全体としては、おおむね順調に進展していると考えられる。診断法の確立のための患者組織や血清サンプルについては、広島大学との交渉により進展していることから、昨年に同定されたmiR-21やmiR-125bの発現と患者予後や組織系など臨床病理学的解析にも着手することができるものと予想している。
本年度の解析において、Rab27bのshRNAを恒常的に発現させたCaFによる胃癌細胞の浸潤能への影響が見られなかった。これは、少なくともRab27bにより制御されるExosomeが前年度認められたCaF由来のExosomeによる胃癌細胞浸潤に関わっていないということが示唆される。Exosome分泌にはこれまでに様々な分子が関わることが知られており、それぞれが制御するExosome画分にも機能が異なることが示唆されている。つまり、別のExosome分泌系が今回の胃癌細胞浸潤を制御している可能性が高い。現在、別のExosome分泌系を阻害するSMPD3のshRNAを恒常的に発現したCaFを構築しており、胃癌細胞浸潤能への影響を確認している。これが確認されたのち、本年度樹立したマウスモデルを用いた検討で、スキルス胃癌の腹膜播種浸潤への影響について検討する。さらに、胃癌患者血清や組織を用いた検討を開始し、診断法への応用に関しても検討を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
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