研究課題
研究計画に基づき、本年度は鉄窒化物原子層膜の作製方法の確立とその構造・電子状態について詳細な研究を行った。この試料は、原子状窒素の表面吸着、鉄蒸着およびアニーリングという3段階のプロセスをそれぞれ最適化することによって得られる。しかしながら、規則度の良い原子配列構造を表面に一様に作製しようとするとアニーリング温度を高くする必要があるため、窒化鉄が分解しやすくなってしまう。そのため、上述の作製プロセスを系統的に変化させた試料に対して、ミクロな構造と電子状態との関係を走査トンネル顕微鏡/分光法(STM/STS)を使ってまず明らかにした。まず初めに、窒素打ち込み量、鉄蒸着量、アニール温度をそれぞれ最適化することで、表面構造規則度の良い鉄窒化物原子層膜を様々な被覆率で作製することに成功した。鉄窒化物島に対して行ったSTM/STS測定による詳細な電子状態測定からは、軌道により異なる波動関数の減衰長の違いを反映し、STM探針により主に検知される状態が探針-表面間距離に依存して移り変わる様子を、系統的な形状像およびSTS測定を用いて初めて実験的に明らかにした。この結果は第一原理計算により極めて良く再現され、査読付き学術論文誌Physical Review Lettersに掲載されたほか、国際学会ICM2015および日本物理学会で口頭発表を行った。原子層鉄窒化物膜のX線吸収/磁気円二色性(XAS/XMCD)実験からは、アニール温度が低く、表面構造規則度が悪いあるいは原子欠陥が存在する場合には磁気モーメントが大きく低下してしまうことが分かり、ミクロな構造とマクロな磁性に関する重要な知見が得られた。この結果は日本物理学会で口頭発表を行ったほか、査読付き学術論文として投稿予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標である規則度の良い鉄窒化物原子層膜の作製法の確立、およびその電子・磁気特性の解明を遂行することができ、順調に進捗している。詳細なSTM/STSおよびXMCD測定により予想外に重要な知見が得られ、研究の見通しも明るい。またスピン偏極STM(SP-STM)実験の前準備として、探針スパッタ・加熱用のサンプルホルダーを作製・導入し、探針先端に蒸着するための3d遷移金属の蒸着源などをヘリウム温度で測定可能な極低温STMに取り付ける作業を行った。SP-STM実験のテスト測定も行い、次年度への準備は着々と進んでいる。
研究計画にもとづき、SP-STM実験および論文執筆を進めていく。結果は適宜国際・国内学会などで発表を行っていく。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Physical Review Letters
巻: 116 ページ: 1-5
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Scientific Report
巻: 6 ページ: 1-9
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Physical Review B
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Physical Review B (Rapid communications)
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