本研究は植物の高温ストレスに応答した伸長成長の分子機構を明らかにすることを目的とする。シロイヌナズナではHsfA1a、HsfA1b、HsfA1dの3つのHsf型転写因子が高温ストレス応答のマスター転写因子として機能することが明らかにされており、これら3つのHsfを欠損したhsfa1三重変異体では顕著に高温耐性が低下することが示されている。我々はこれまでにこの高温ストレス応答がほぼ完全に失われた変異体であるhsfa1三重変異体において、高温に応答した胚軸伸長が強く抑制されていることを見出してきた。 本年度では、先行研究で実施されたhsfa1三重変異体を用いたマイクロアレイの結果を解析し、HsfA1の下流で植物体の成長を制御する因子の探索を行った。その結果、HsfA1の下流で機能する因子として、植物ホルモンの一種であるジベレリンの合成酵素が候補因子として挙げられた。そこで高温ストレス処理を行った植物における内生ジベレリン量を、野生型シロイヌナズナおよびhsfa1三重変異体でそれぞれ定量した。その結果、高温ストレス処理によって内政ジベレリン量が増加すること、またその変動はHsfA1依存的に起こることを示唆する結果を得た。この結果をさらに検証するために、栄養成長期におけるジベレリンシグナル伝達の重要な因子であるRGAとGFPの融合タンパク質を発現する形質転換植物を作出した。RGAは細胞内のジベレリン量の増加に応答して分解されるため、一種のジベレリンセンサーとして広く用いられている。野生型、hsfa1abd三重変異体の各遺伝学的背景でGFP-RGAを発現する植物を用いて、胚軸におけるGFP蛍光の観察を行った。その結果、ジベレリンの定量実験を支持する結果が得られたため、HsfA1は高温に応答したジベレリン合成の制御にも深く関与する因子であると結論付けた。
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