本年度前期はこれまでの成果を博士論文としてまとめ、申請、博士号取得となった。内容は高分解能透過型電子顕微鏡の数理的原理から始まり、高周波加速を採用した場合の可能性について議論した。その後ビーム・ダイナミクス・シミュレーションにより、300 kVと3 MVの加速電圧における超伝導高周波加速方式透過型電子顕微鏡の実現可能性について指摘し、2つの共振モードを同時に励振できる世界初の超伝導空洞、2モード空洞の製作と、それを高精度に制御する高周波制御システムの開発について記述した。最後のまとめでは、各要素開発の性能評価結果から改めて透過型電子顕微鏡としての期待される性能を定量評価し、超伝導高周波加速方式透過型電子顕微鏡の基礎確立を強調した。 博士号取得後、それまで研究していた高エネルギー加速器研究機構で博士研究員として採用され、引き続き本研究を続けることとなった。 本年度後期は1. 2台目の2モード空洞の開発、2. マルチポートの真空焼きだしを行った。 2モード空洞の試作機は既に1台製作しているがこれは2つの共振モードの周波数比が目標値である2.0000を満たさなかった。このため2台目の2モード空洞の製作を開始した。2台目の設計はこれまでよりも柔軟に共振周波数比を操作できる設計となっており、3月末の時点で2つのハーフセルが製作済みである。これらのハーフセルは来年度に互いの赤道部を電子ビーム溶接にて接合し、1つの空洞として完成させる予定である。 マルチポートは電子銃または2モード空洞の直下に設置し、ビームのenergy spreadをElectron Energy Loss Spectrometer (EELS)で測定するために製作した真空チェンバーである。今回真空焼きだしを行い、ビーム試験に必要な真空度が達成されることを確認した。
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