研究課題
我々は空洞共振器中の量子ビットと強磁性を用いた量子中継器の実現を目指している。超伝導量子ビットは共振器中の振動電界と、また強磁性体スピン集団は磁気双極子モーメントを通じて共振器中の振動磁場とコヒーレントに結合する。両者は空間的に隔たっているが、共通の電磁場モードを介して量子的な情報をやり取りする。我々はトランズモン型超伝導量子ビットとイットリウム鉄ガーネット強磁性体球のコヒーレント結合を実現した。強磁性体スピンと超伝導量子ビットがスワップ操作により情報やエネルギーをやり取りする状況下において、相互作用の発展時間を制御することにより両者間にエンタングルメント(量子相関)を有する状態を生成する。強磁性体中スピンと超電導量子ビットのエネルギーを縮退した条件では、両者はエネルギー量子を交換する。このとき短いマイクロ波パルスにより強磁性体スピンを励起し、励起した両者の時間発展の様子を観察した。この結果、量子ビット励起は58ナノ秒周期にて振動し、結合に起因するマグノン真空誘起のコヒーレントラビ振動を観測した。得られた量子ビットの縦・横コヒーレンス時間はそれぞれ550ナノ秒と950ナノ秒、またマグノンのコヒーレンス時間は130ナノ秒であり、結合による振動周期 58ナノ秒より長い時間コヒーレンスを維持した。さらに超電導量子ビットと強磁性体スピンのエネルギーを離調した条件において、強磁性体中のマグノン数の量子非破壊測定技術を開発した。この測定ではマグノンの個数演算子による測定が可能となる。我々は周波数領域測定において原理検証実験を行った。この結果、超電導量子ビットの共鳴スペクトルの励起マグノン数に依存する分裂を観測した。コヒーレントマイクロ波によるマグノン励起に由来し、マグノン数分布がポアソン分布に従うことを示した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の課題であるマグノン状態の制御やエンタングルメント生成に関する実験を行った。エンタングルメント生成実験ではシミュレーションを中心に進め、実験をよく再現している。またその結果からエンタングルメント量やマグノン状態に関する知見を得た。またカナダからの夏季インターンシップ生を指導し、マグノン状態の量子非破壊を行う実験が飛躍的に進展した。装置開発においては米国からの夏季インターンシップ生を指導し、量子誤り訂正に向けてFPGA間の高速シリアルインタフェースの実装を試みた。誤り訂正符号の実現において、得られた量子ビットの状態に応じて制御ゲートをリアルタイムに変更する量子フィードバックの実装ではFPGA間の低レイテンシ通信が重要となる。PCIeからの拡張ボードを設計・制作し、SATAケーブルによる通信を行う。8b10b変換とクロック再生というシンプルな構成において、FPGA間の通信のレイテンシが50ナノ秒と極めて低レイテンシの通信を実現している。数十マイクロ秒という量子ビットの典型的なコヒーレンス時間に比べてその遅延時間が短いため、高い忠実度による量子フィードバック実験が期待できる。量子ビット制御の実験においては、2量子ビットの相関対生成とその量子状態トモグラフィと量子プロセストモグラフィ実験の原理検証実験を行った。トランズモン型量子ビットを同一の共振器モードと結合させ、共振器を介した結合を誘起した。C-PHASEゲート時間は約330ナノ秒で実行できることを確認した。
量子誤り訂正符号の実装に向けて、予定通りこのまま研究を進めてゆく。前期にFPGAと高速DA/AD変換器周辺の回路設計とソフトウェア実装を終え、3量子ビットデバイスの設計に取り組む。また2量子ビットのゲート評価と忠実度を評価し、信頼性の高いゲート実装に取り組む予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 8件、 招待講演 3件)
Review of Scientific Instruments
巻: 86 ページ: 063110
10.1063/1.4922791
Science
巻: 349 ページ: 405-408
10.1126/science.aaa3693