異なるポリマー鎖の末端間を結合させてつくるブロック共重合体は、規則性の高いナノドメイン構造を自発的に形成することから様々な用途への応用が期待されている。ナノドメイン内に閉じ込められたブロック鎖の結晶化においては、ナノドメインそのものによる空間的制約のほかに、ブロック鎖の片末端または両末端がナノドメインの界面に固定されているという「末端固定」も重要な役割を果たす。本研究では、光分解性の非晶性-結晶性-非晶性トリブロック共重合体を用いて、ナノドメイン内のポリマー鎖の片末端・両末端の固定・解放が結晶化挙動に及ぼす影響を明らかにし、末端固定を通じた結晶化制御方法の確立を目指した。 本年度は、前年度に確立したモデル光分解性トリブロック共重合体の合成手法に基づき、板状(ラメラ状)およびシリンダー状の2つの異なる形状のナノドメイン内に閉じ込められた結晶性鎖の結晶化速度および結晶配向を調査した。まずラメラ状ナノドメイン内では、両末端および片末端固定はいずれも結晶成長を阻害し、結晶配向(分子鎖軸の傾き)を著しく変化させた。このようにナノドメイン構造のサイズを変化させることなく、末端固定の状態のみによって結晶配向が変化するという現象はこれまで観察されておらず、非常に興味深い。これに対しシリンダー状ナノドメイン内では、片末端を固定すると結晶核生成が阻害され結晶化速度が低下した一方、もう片末端も固定し両末端固定にすると核生成が促進され結晶化速度が上昇する特異的な挙動が見られた。 以上の結果から、本研究はこれまで明確でなかった結晶化における末端固定の役割の理解に大きく貢献し、同時にナノ構造材料における結晶化制御の新たな手法を与えるという意味においても意義深いものであったと言える。
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