研究課題/領域番号 |
15J10520
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 多佳由 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 白色矮星 / 激変星 / 強磁場 / 降着柱 / 反射X線 / X線スペクトル / X線望遠鏡 / X線天文学 |
研究実績の概要 |
本年度は、白色矮星からの反射X線を用いた白色矮星の質量半径測定を実現する、X線スペクトルモデルを構築した。この手法は、昨年度に私が考案したもので、白色矮星近傍のプラズマからのX線のうち、白色矮星で散乱または吸収・再放射され、白色矮星外へ放出された「反射成分」を用いる。反射成分の強度は、プラズマから見た白色矮星の立体角に強く依存するため、これによって、プラズマと白色矮星の半径の関係を制限できる。今年度は、半径をフィットパラメータに取り込み、質量半径測定が可能なモデルを構築している。 一方で、モデルの適用も同時に進めている。これまでに観測へ適用したモデルは、半径を取り込んでいないものであるが、プラズマからの直接成分と反射成分を統一的に扱っている白色矮星のX線スペクトルモデルはこれまでにはなく、蛍光線を取り込んだものもなかった。そのため、このモデルでも、新しい知見が得られる。実際に、既存の衛星データから、白色矮星の自転軸とプラズマ流を閉じ込めている磁力線の間の角度が測定でき始めている。 本研究においても重要であったHitomi衛星は、軌道上で不具合を起こし、短命に終わってしまったが、X線領域での高エネルギー分解能観測が宇宙物理学において重要であることを示すには十分であった。これを受け、Hitomi代替機の開発が始まろうとしている。私は、NASAのGSFCにて、代替機のX線望遠鏡の性能を向上させるべく開発を行っている。Hitomi型X線望遠鏡の性能は、1台あたり約2000枚使用する、反射鏡の形状に左右される。実際の開発では、必要数以上の反射鏡を作成し、良いものを選別して使用するが、私はこの際の選別法を立ち上げている。具体的には、可視光ビームを反射鏡に照射し、その反射像から反射鏡面の性能を推定する。これまでに、局所的に、極端に悪い形状をもつ反射鏡を検出することを可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、主に取り組んだ、白色矮星からの反射を用いた白色矮星の質量半径測定法の開発は、当初の予定にはなかったものの、Hitomi衛星による高エネルギー分解能データが得られない今、これを補う上で、とても重要なものになった。反射X線のモデル化により、予定以上の時間がかかっているが、プラズマからの熱的成分と白色矮星からの反射X線を統一的なモデル化自体が新しい試みであることに加え、白色矮星近傍のプラズマの幾何学やこれを決定している白色矮星磁場まで測定できる可能性が出てきた。磁場と質量、半径が同時に測定できるなら、強磁場中の状態方程式を探ることまで可能になる。さらに、反射成分のスペクトルモデルには、蛍光鉄Kα線がコンプトン散乱された成分の詳細な構造も取り込んだ。このコンプトン散乱された成分のスペクトル構造は、原子内に束縛された電子の運動によるドップラー効果によって広がっており、これは、束縛電子の運動量分布、つまり、波動関数そのものを表している。Hitomi代替機などによる、将来の10 eV以下の精密X線分光を用いて、白色矮星表面の電子状態を測定する上で、先駆的な仕事である。これらの反射X線のモデル化によって得られた結果は、当初の目論見を超えた成果である。 一方で、Hitomi喪失による影響は避けられない。当初の計画で想定していた、高エネルギー分解能のデータは本研究期間内に得られる見込みはなくなった。これによる、白色矮星の質量と半径の測定精度の低下は避けられない。 以上の、反射X線による白色矮星の質量半径測定法の開発とこれによる成果と、Hitomi喪失による損失を鑑み、全体としては「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに、熱的X線と反射X線を統一的に扱い、白色矮星の質量と半径をフィットパラメータに取り込んだ、スペクトルモデルがほぼ完成した。次のステップは、このモデルの観測への適用である。当初想定していた、5eVなどの高エネルギー分解能のデータは使用できないが、既存の高統計なCCDデータや、数十eVのエネルギー分解能を持つgratingのデータ、2012年にNuSTAR衛星によって可能になった、硬X線撮像観測による、低バックグラウンドの硬X線データなどを駆使することで、白色矮星の質量と半径の測定を実現する。 同時に、反射X線のモデル化によって測定が可能になった、白色矮星の自転軸と磁極の傾きと、赤外線や可視光の観測による、連星系の軌道傾斜角や磁場に捕捉される直前の、降着円盤の内縁半径の情報を使用し、白色矮星の磁場の測定を試みる。白色矮星磁場の強度が10の5-6乗Gに当たる、中間ポーラーと呼ばれる白色矮星連星では、磁場の測定法が確立していない。この手法が有用であれば、この種族の白色矮星磁場の一般的な測定法になり得る。 観測機器開発では、Hitomi衛星の代替機の開発を行う。特に私は、X線望遠鏡の性能向上と測定システムの立ち上げをNASAのGSFCにて行う。望遠鏡の性能向上では、可視光ビームによるシステマティックな反射鏡の選別法を確立する。また、Hitomi搭載の望遠鏡では、特定の範囲の半径を持つ反射鏡の性能が特に悪かったので、これを集中的に改善する。測定システムの立ち上げでは、宇宙科学研究所で同様の経験があるので、これを活かして開発を進める。Hitomi衛星まではX線望遠鏡の測定は主に宇宙科学研究所で行われていたが、望遠鏡の製作を担当しているGSFCが担当することで、製作にフィードバックをかけられるようになるため、望遠鏡の性能向上にもつながる。
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