研究課題/領域番号 |
15J10544
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
宇高 健太郎 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 墨 / 膠 / 水墨画 / 修復材料 / 日本画 / 文化財 / 保存科学 |
研究実績の概要 |
古典的膠製造技術の復元を過年度研究よりさらに進めた。また近代以前の各種文献を参考として、各条件で古典的原料/製法による墨復元の予備試験を進めた。墨液における分散安定性には膠と煤の荷電傾向および表面官能基等が理論上強く関係するため、こうした諸要素に特に留意して条件を検討した。 本研究では墨試料を各条件で試作し、摩墨後墨液における凝集体規模経時測定を通して、製造条件が凝集化進行速度に及ぼす影響を明らかにする。当該実験では高濃度検液を扱うことが重要であるため、レーザ回折式粒度分布測定装置に高濃度測定ユニットを接続し、これを行なうにあたっての予備試験を進めた。 各墨試料における滲み拡散性評価を進めた。当該評価にあたっては、唐紙への滴下等によって一定の定量性を担保した。また現存する清代及び江戸期等の各種古墨試料についても同様の評価実験を行ない、試作墨との照合を進めた。これらの結果と、過年度に明らかにした古墨試料中の膠分子量分布及び含有煤の粒子径分布の照合を行ない、試料組成と性状の関連モデルについて検討を進めた。当該研究等における成果をもとに、膠の基礎知識に関する刊行物校正等を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究において新規墨試料の原料として使用予定であった墨原料煤試料を精査した結果、試料製造設備由来と考えられる繊維の混入が認められたため、これの除去処理及び一部新規原料の確保を行う必要が生じた。これに伴って、新規墨試料及び膠試料の製造実験と分析を後倒しする必要が生じた。また当初予定では参照困難であった一部試料を確保できたことから、これらの分析を包括的に行なうために、予定期間を当初予定から延長することとした。 古典的膠の製造条件と物理化学的性質の関連については、加熱劣化処理に対する耐性等各種性状に関し概ね計画通りに体系化が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
近代以前の膠製造技術復元を過年度研究よりさらに進め、より広範な条件下で体系化を行なう。各自製膠及び自製墨試料について複数の日本画家と文化財修復技術者による試用評価を行ない、用途適性と物理化学特性の関係を明らかにする。なお現時点で、絵画制作用途適性について10名の日本画家による評価を進めており、特に粘度、ゼリー強度、等イオン点、表面張力等と、作業性や堅牢性等とのあいだに有意な関係があることを確認している。当該申請研究では、特に文化財修復用途における適性評価について、各種文化財修復実績のある複数の修復技術者と連携して重点的に進める。 墨試料の試作と分析を、当該研究計画2年目までの実験に準じて進める。試作墨と古墨試料による着色紙片について走査型電子顕微鏡による観察を行ない、墨製造条件が紙繊維への煤の分布・固着状態ならびに画面効果に及ぼす影響を明らかにする。
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