過年度に引き続き、より広範な条件において古典的膠製造技術の復元製造を進めた。また加熱処理による低分子化進行度及び側鎖置換進行度に違いのある各種膠を用いて、物理的性質が異なる複数の層からなる彩色体を調整し、各層の張力等の差により各種絵画文化財彩色層劣化状況の再現を定量的に行なう方法を開発した。該成果物は任意の修復材料の定量的適性評価のほか、技術や技能等の評価における活用可能性も期待される。さらにこれを用いて、複数の文化財修復技術者による各種膠試料試用評価を行ない、膠の物理化学的性質等と該用途適性の関係を明らかにした。これにより任意の劣化状況に対して適した修復用古典的膠を選定し、高い再現性のもとに恒久的に製造することが可能となった。 また過年度に引き続き、近代以前の各種文献を参考として、各条件で古典的原料/製法による墨の製造試験を進めた。墨液における分散安定性には膠と煤の荷電傾向および表面官能基等が理論上強く関係するため、こうした諸要素に特に留意して条件を検討した。 さらに滴下法等一定の定量性を担保した試験によって、各墨試料の唐紙における滲み拡散性評価を行なった。また現存する清代及び江戸期等の各種古墨試料についても同様の評価実験を行ない、自製試料との比較照合を行なった。
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