研究課題
本年度は、「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム」の支援を受けて、カリフォルニア大学バークレー校のKrishna K. Niyogi教授と共同研究を行い、緑藻クラミドモナス変異株コレクションから光酸化ストレスに感受性を持つ変異体を選抜し、光化学系II(PSII)の光阻害への影響を解析した。Niyogi教授の研究室で作成されたクラミドモナス変異株コレクションから、光酸化ストレスに感受性を示す変異株を10個体選択し、その表現型を解析した。さらに、それぞれの変異株を野生株と掛け合わせることで変異株における遺伝子変異とその表現型の相関を確認した。その結果、セリン・スレオニンキナーゼ11、Mitogen-Activated Protein Kinase (MAPK)、カゼインキナーゼII alpha、CNK8にそれぞれ遺伝子変異を持った変異株が表現型と相関することが明らかとなった。そのうち、MAPK変異株は、野生株に比べてPSIIの光損傷が促進していることが明らかとなった。またMAPK変異株では、光酸化ストレス下においてクロロフィル含量に急激な減少が見られたことから、MAPKがクロロフィル合成に関与することが示唆された。さらに比較リン酸化プロテオーム解析から、MAPK変異株では、PSIIのアンテナタンパク質LHCbmや集光性色素タンパク質CP26などがリン酸化されていることがわかった。これらの表現型と遺伝子型の相関を調べるため、数世代にわたって野生株とMAPK変異体を掛け合わせたところ、MAPK変異体ではPSII活性が著しく低下していることが明らかとなった。したがってMAPKによるシグナル経路が強光順化におけるPSIIの修復に重要な役割を担っていることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
これまでにMAPK変異株を含めた4株について光酸化ストレスの感受性とその遺伝型に相関が見られた。MAPK変異体について光阻害及びクロロフィル合成における変異の表現型が見られたため、さらに表現型と遺伝子型の相関を調べる必要が出た。そこでMAPK変異体と野生株を数世代にわたって掛け合わせたところ、当初の予想と異なり、MAPK変異体はPSII活性が著しく低下していることが明らかとなった。現在までにMAPKにおける変異をPCR法によって解析し、その挿入部位及びゲノムの破壊領域を特定した。MAPK変異体におけるPSII活性の著しい低下はPSIIの修復が機能していないためであると考えられるため、強光順化においてもMAPKシグナルがPSII修復を制御していることが示唆された。このように研究は概ね順調に進行していると考えられる。
これまでにMAPKの変異がPSIIの活性に影響を与えることを四分子解析によって明らかにした。今後はMAPKにおける変異がPSIIの活性維持に必須であることを明らかにするため、野生型の遺伝子をMAPK変異体に導入し、その表現型が回復するかどうかを確認する必要がある。さらに、PSII活性の著しい低下をより詳細に解析するため、酸素電極や低温蛍光を用いて、MAPK変異体におけるPSIIの機能を明らかにする。さらにPSIIを構成するタンパク質をそれぞれのタンパク質に特異的な抗体を用いて検出し、そのタンパク質量を解析する予定である。また、MAPKに蛍光タンパク質を融合したキメラタンパク質をMAPK変異体に発現させて蛍光顕微鏡によってMAPKの細胞内局在を解析する。その際、MAPKの局在の変化について、強光照射後に継時的に解析する。また、強光順化におけるPSII修復強化について、強光順化させた株におけるタンパク質の新規合成活性を放射性同位体によって解析する。その際、翻訳因子EF-Tuのin vivo酸化還元状態を解析する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Plant Cell Physiol.
巻: 56 ページ: 906-916
10.1093/pcp/pcv018