研究課題
本年度は、特別研究員研究奨励費の援助を受けて、カリフォルニア大学バークレー校のKrishna K. Niyogi教授と共同研究を行い、緑藻クラミドモナスのMAPK変異株を用いてその光化学系II(PSII)の活性と相補株の作製を行った。MAPK変異体において野生株と比べて、PSIIの反応中心であるD1タンパク質およびD1タンパク質をコードするpsbA転写産物量が著しく低下していた。また、MAPK変異体にMAPK遺伝子のゲノム領域を導入すると、MAPK変異株における表現型が相補した。以上の結果から、MAPKは強光順化においてpsbA遺伝子の転写制御に重要な働きを担っていることが考えられる。本研究の成果は2016年8月にオランダのマーストリヒトで開催された国際光合成学会における口頭発表に選出され、発表を行った。今後は強光順化におけるMAPKシグナル経路の作用を抗MAPK抗体で解析する予定である。また、シアノバクテリアにおいて強光順化とタンパク質合成との関係を放射性同位体によって解析した。強光順化したシアノバクテリアでは弱光順化株に比べて、タンパク質の新規合成活性が促進していた。さらにその際、翻訳因子EF-Tuの発現量をウェスタンブロットで解析すると、強光順化株では弱光順化株に比べてEF-Tuの発現量が著しく増加していた。そこで、野生株にEF-Tuを過剰発現させたところ、タンパク質合成に依存した修復が促進し、PSIIの光阻害が緩和した。以上の結果から、強光順化に伴いEF-Tu量の増加し、その結果としてタンパク質合成が促進しPSIIの修復が促進することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度に担当者は、カリフォルニア大学バークレー校のKrishna K. Niyogi教授との共同研究で、光酸化ストレスに感受性を持つMAPK変異体における表現型を解析した。その結果、MAPK変異体では葉緑体の遺伝子であるpsbA転写物が著しく低下していた。したがって、MAPKにおけるPSII活性の低下はPsbAの転写物の低下によって、PSIIの反応中心であるD1タンパク質がうまく合成されていないことが原因であることが明らかとなった。さらにシアノバクテリアを用いた解析から、強光順化株においてタンパク質合成が促進していた。さらに強光順化した株ではEF-Tuのタンパク質量が増加していた。そこで野生株においてEF-Tuの発現量を増加させたところ、タンパク質合成の促進によって修復が促進した。したがって、強光順化の過程で翻訳因子EF-Tuの発現量が増大し、その結果としてタンパク質合成の促進によって光化学系IIの修復が促進することを見出した。このように研究は概ね順調に進行していると考えられる。
MAPKシグナル経路が強光順化においてどのような作用をしているのかを解析するために、MAPKに特異的な抗体を作製して強光順化におけるMAPKタンパク質の発現量を解析する必要がある。さらにFLAGペプチドタグをMAPKに付与させたキメラタンパク質をMAPK変異体に発現させて、細胞抽出液を用いた共免疫沈降によってMAPKの標的タンパク質を同定する予定である。現在、共同研究先であるカリフォルニア大学バークレー校のKrishna Niyogi教授によって野生株とMAPK変異体におけるRNA-Seq解析を行い、MAPKシグナリングの下流の遺伝子発現を解析している。これらの解析結果をまとめた後、MAPKによるpsbAの発現制御について成果を論文にまとめて投稿する予定である。また、EF-Tuの増加がどのようにタンパク質合成を促進してPSIIの修復を促進しているのか、EF-Tuのin vivo酸化還元状態を解析する。さらに強光順化におけるEF-Tuの増加とPSII修復の促進を継時的に解析し、EF-Tuの増加がどの程度強光順化に貢献しているかを解析する。これらを解析後、EF-Tuの増加による強光順化のPSII修復促進についても成果を論文にまとめて投稿する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
J. Biol. Chem.
巻: 291 ページ: 5860-5870
10.1074/jbc.M115.706424