ポリマーバイオマテリアルのモデル表面として精密重合法により構築した①双性イオン性、②カチオン性、③アニオン性、④疎水性のポリマーブラシ表面を基盤とし、原子間力顕微鏡(AFM)を利用して表面で働く様々な力の解析を実施してきた。基板表面とAFMのプローブ表面に同種のポリマーブラシ層を構築することにより、同種ポリマーブラシ表面間で働く力を測定し、各表面で固有に生じる相互作用を解析する手法を確立した。この解析から、系統的に構築した一連のポリマーブラシ層を利用することにより、表面で生じる“静電的相互作用”と“疎水性相互作用”を分離して評価することが出来ることを見出した。また、タンパク質を化学的に固定化したAFMプローブを用いて表面とタンパク質の間に働く力を定量的に評価した結果、静電的相互作用が生じるカチオン性、アニオン性のポリマーブラシ表面や、疎水性相互作用を生じる疎水性のポリマーブラシ表面ではタンパク質との間に強い相互作用力が働くため接触後の可逆的な脱離が妨げられるが、双性イオン性のポリマーブラシ表面では一切の相互作用が生じないことを明らかとした。さらに、タンパク質との相互作用力とタンパク質の吸着量の間に正の相関が見られ、表面-タンパク質間の直接的な相互作用力の強さが最終的なタンパク質吸着量に影響することが定量的に示された。以上より、バイオマテリアル表面におけるタンパク質吸着を回避するためには、双性イオン性のポリマー表面に代表されるように、ナノレベルの相互作用を生じない表面の設計が重要であることを実測の力を基に実証した。このように“構造・特性が制御された一連のポリマーブラシ表面”と“AFMを利用した力の解析”を効果的に組み合わせることによって、これまで推測であった界面におけるタンパク質吸着における表面構造・特性の影響に関する理解を分子間相互作用力の観点から押し進めることができた。
|