魚類のストレス応答を制御する脳内機構の解明を目指して、メダカの脳内で発現するストレス応答遺伝子である副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)とその関連遺伝子に着目し、最終年度である本年度は以下の通り研究を行った。 昨年度の研究によりCRHの欠損がメダカの性行動に影響を及ぼすことが分かったので、本年度はその追試もかねて、2種類あるCRHの受容体(CRHR1、CRHR2)のうちどちらがその表現型に関与しているのか明らかにすることを目指した。そこでまずはゲノム編集によりこれらの変異体メダカを作製し、行動解析を行ったところ、CRHR2変異体メダカについてのみ、CRH変異体メダカと同じ表現型が確認された。この結果は、CRH-CRHR2カスケードがメダカの性行動を制御していることを示唆するものである。続いて、これらの変異体メダカに対し、不安・恐怖条件を設定して行動解析を行ったところ、CRHR1変異体メダカでは不安様行動が減少した一方で、CRHR2変異体メダカでは逆に、不安様行動が増加した。これは、他の脊椎動物におけるCRH受容体の変異体解析の報告ともおおむね一致する結果であり、魚類においてもCRHとその受容体が不安行動を制御していることがわかった。このようにして本研究により、CRHおよびその受容体は、魚類において、生殖や恐怖・不安といった、ストレスと関係する行動を制御していることが明らかとなった。
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