研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本語母語英語学習者(JLE)が英文黙読時に、注視している単語だけではなく、目を向けていない単語の音韻処理を行っているかを、読み手の読解力構成技能と関連づけて検証することである。平成27年度は、英文黙読時における既読語の音韻表象の保持(実験1)と未読語の音韻情報の前処理(実験2)の検証を予定していたが、個人差の影響をより詳細に検証するために、参与者一人当たりの実験回数を3回から平均7回に増大し、複数の観点から読解構成技能の測定を行ったため、27年度は実験1のみ遂行した。 実験1では、英文に含めたプライム語とターゲット語の音韻的・正書法的表象の重複度を4種類設定し(1. wife-life, 2. guess-guest, 3. light-eight, 4. they-stay)、眼球運動計測を行い、ターゲット語の注視時間を調査した。また、参与者のスペリング力と、ディコーディング力、ワーキングメモリ等を測定し、黙読時の音韻処理の有無に個人の読解力構成技能が与える影響を調べた。 線形混合モデルを用いた分析から、1)JLEは英語母語話者のように、単語の音韻的・正書法的表象がプライム語とターゲット語で重複した場合、ターゲット語の注視時間が長く、2)読解力構成技能(スペリング力・ディコーディング力)が高いほどプライム語処理時に活性化された語彙表象がターゲット語処理に影響する、ということが明らかとなった。これらの結果は、学習者であれ、英文黙読時には既読語の音韻情報を保持しているということを示唆するほか、読解時の単語認知プロセスは、読み手の読解力構成技能の高低によって異なることが明らかとなった。 また、眼球運動計測と能力測定を融合させたことで、読解時の認知プロセスに影響する個人の能力を特定することを可能とし、第二言語の読解研究の発展に向けた新たな方向性を示した。
|