本研究の目的は、近自然型林業による生物多様性保全効果と、それに伴う経済的損失(あるいは便益)を定量化することである。近年、多くの国や地域において、林業を行う際に生物多様性にも配慮することが求められるようになってきた。その方法として、近自然型林業が注目されている。近自然型林業では、従来すべて持ち出されていた立木や倒木をあえて施業地に残すことで、生物の棲家を確保する。しかしながら、それに伴う生物多様性や経済収支への影響は明らかにされていない。 2年目の今年は、主に野外データの収集と植生群集解析を行った。近自然型林業が実施されている実験林において、調査プロットを約200か所設置し、植生データ(維管束植物、蘚苔類、地衣類)を収集した。また、周辺樹木の直径、樹種、プロットまでの距離を測定した。これらのデータを使って、プロットの植生群集が、周辺樹木の単木情報によって、どの程度説明できるかを統計モデリングによって明らかにした。また、実験林において2000年から2010年まで集められてきた植生データ(n=1080)を使って、多変量解析に基づく群集集合則の分析を行った。その結果、近自然型林業が行われている林分では、天然林よりも高いα多様性(生物種数)が観察され、また、天然林と同等のβ多様性(林分内の種組成のばらつき)が維持されていることが分かった。この成果を、学会にて発表した。
|