昨年度,パラジウム/ホスフィン-スルホナート錯体を用いたプロピレンの重合において,リン上の置換基を検討し,かさ高いアルキル基であることが,分子量の向上に必須であることがわかった.そこで,本年度は,リン上の置換基が重合に及ぼす効果についてさらなる検討をおこなった.その結果,リン上の置換基に不斉点がない錯体を用いてもアイソ選択性が見られる錯体を見出した.このことは,立体選択性がホスフィン-スルホナート触媒と伸長しているポリマーとの相互作用によって制御されることを示している.これは,リン上にメンチル基を有する錯体用いたときにアイソ選択性がchain-end controlによって制御されている,すなわちリン上の置換基にある不斉によらずに制御されているという結果を補足するものである.このことを基に,プロピレンの挿入の立体選択性に関して,DFT計算による検討を行い,予備的な結果ではあるがスルホナート置換基の擬アキシャルに位置する酸素原子が,立体選択性の制御に関与していることが示唆された.この結果は,立体選択的なプロピレン重合を行う後周期遷移金属触媒の開発を進める上で重要な知見である. また,配位子を最適化する手法の一つとして,Directed evolutionを利用した酵素の最適化の手法を学ぶためETH ZurichのDonald Hilvert研究室に留学し,研究を進めた.
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