研究課題/領域番号 |
15J10657
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
立岡 美夏子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | セルラーゼ / 分子進化工学 / スクリーニング / バイオマス糖化 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
木質や草本などのセルロース系バイオマスは持続可能な資源であり量も豊富であることから、液体燃料や化成品の原料など石油の代替資源としての利用が期待されている。バイオマス酵素糖化プロセスにおいては結晶性セルロース分解が律速となることが知られている為、自然界の主な分解者であるカビやキノコ由来のセルラーゼによる分解メカニズムを理解することは重要な課題である。そこで本研究では、糸状菌由来の異なる2種類のセルラーゼ(Cel6とCel7)がセルロース表面上で協調的に働くメカニズムを解明するため、詳細な反応機構が分かっていないCel6に着目し、ランダム変異導入法を用いた機能改変によってその反応機構を考察した。 成果1)変異体取得に向けたスクリーニング手法の確立:ランダム変異導入法を用いてキノコ由来Cel6(PcCel6A)の変異体を作出し、変異体を結晶性セルロース分解活性の観点から選抜するためのスクリーニング法を検討した。スクリーニングを行った結果、非晶性セルロースに対する活性がある変異体のうち結晶性セルロースに対する活性が著しく減少した変異体が得られた。 成果2)PcCel6Aの3次元構造の決定:PcCel6Aの反応機構を分子レベルで考察するため、野生型PcCel6Aの活性ドメインのX線結晶構造解析を行い、3次元構造を決定した。 成果3)結晶性セルロース分解に重要なCel6の要素の解明:1)2)で得られた情報により、非晶性セルロース分解活性に対する結晶性セルロース分解活性が顕著に減少した変異体は、セルロース鎖の取り込みの役割を持つと考えられている基質結合部位に位置している芳香族アミノ酸に変異が入っていることが明らかとなった。PcCel6Aの結晶性セルロースの分解には、セルロース鎖を活性中心へと取り込む仕組みが非晶性セルロースに比べてより重要であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2分子のセルラーゼの相乗効果がバイオマスの効率的な変換利用に重要であることに着目し、反応メカニズムの解明に向けてタンパク質の機能改変や結晶構造解析を行った。セルラーゼの機能改変が新規手法によって達成できることを示し、対象としているセルラーゼの分解機構を示唆する結果を得た。これらの研究による成果を、米国で行われた国際学会(Gordon Research Conference/Seminar)において口頭発表およびポスター発表を行っている。国内学会においては口頭発表1件、ポスター発表2件を行った。現在、手法開発と結晶構造解析に関する英語論文2報を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ランダム変異導入によって得た変異体からセルロース分解活性でスクリーニングすることにより、反応性の変化した変異体が得られることを示した。また、PcCel6AのX線結晶構造から、反応性の変化とそのアミノ酸変異の役割について考察することが可能となった。今後は、スクリーニングのハイスループット化およびCel7との相乗作用でのスクリーニングにより、2種類のセルラーゼが協調的に働くメカニズムの解明を目指す。 1)スクリーニングのハイスループット化 40%の酵母にセルラーゼ活性が無いことが明らかとなったため、酵母の成長段階でセルラーゼ活性によるスクリーニングを行うためのβグルコシダーゼの共発現系を構築する。 2)Cel7との相乗作用によるスクリーニング 最終スクリーニングとしてCel7との相乗作用による分解活性の変化を評価する。
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