木質や草本などのセルロース系バイオマスは持続可能な資源であり量も豊富であることから、液体燃料や化成品の原料など石油の代替資源としての利用が期待されている。バイオマス酵素糖化プロセスにおいては結晶性セルロース分解が律速となることが知られている為、自然界の主な分解者であるカビやキノコ由来のセルラーゼによる分解メカニズムを理解することは重要な課題である。そこで本研究では、糸状菌由来の異なる2種類のセルラーゼ(Cel6とCel7)がセルロース表面上で協調的に働くメカニズムを解明するため、詳細な反応機構が分かっていないCel6に着目し、ランダム変異導入法を用いた機能改変によってその反応機構を考察した。本年度は、X線結晶構造解析によりCel6の立体構造を決定し、触媒中心のループのゆらぎを解析することによって、基質を認識して加水分解反応を行う仕組みを明らかにした。さらに、高分解能X線結晶構造解析を合わせて行い、基質複合体での構造変化とプロトン化の状態の変化から、水素結合ネットワークの組換えによる一般酸触媒によるプロトン供与の機構を提案した。また、ランダム変異導入法をPcCel6Aに適用することによって、結晶性セルロースに対する反応特性の異なるPcCel6A変異体を得ることに成功し、その変異が触媒中心の生成物側のサブサイトに位置していることを明らかにした。2分子の相乗効果においても本変異が活性向上に寄与するかについて今後より詳細な検討を合わせて行うことによって、酵素分解の更なる効率化につながる可能性がある。本酵素の加水分解反応効率には生成物と酵素の親和性が大きく影響していることを明らかとしたことで、結晶性セルロース分解に寄与する性質について新たな知見を示した。
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