研究課題/領域番号 |
15J10717
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
溝口 裕太 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 河川生態系 / 物質循環 / 数値シミュレーション / 水系一貫 / 底生無脊椎動物 / 魚類 |
研究実績の概要 |
河川生態系を物理基盤-物質循環-生物相の3つのサブシステムに区分し,複雑な構造を有する河川環境を大局的に捉える枠組みを提案する為に,各系内での物理・生物・化学的プロセス及び,系間での相互作用をも内包する数値モデルの構築を図っている. 今年度は,流れ,流砂,地形形成解析及び,水温解析をベースとした物理基盤モデル,粒状態・溶存態有機物,窒素三態,リン酸態リン,溶存酸素を対象とした物質循環モデルに加えて,付着性生物,動植物プランクトン,底生無脊椎動物(破砕,刈取,濾過,堆積物,捕食者)及び魚類(雑食,藻食性魚類)を対象とした生物相モデルが完成し,本研究で目標とした物質循環・生態系統合モデルの基礎を概ね構築できた. また,水系一貫解析を対象としたモデル河川を設定し,本数値モデルの特性を把握する観点から数値解析を実施した.これらの結果より,物質項目では粒状有機物,生物項目では付着性生物,底生無脊椎動物及び魚類が物質循環の駆動力となる重要な役割を担っていることが各パラメータの感度分析から示唆され,本数値モデルの精度向上及び検証において重要なパラメータを抽出することができた. この一方で,物理基盤と生物相との相互作用を詳述するサブモデルの構築を底生無脊椎動物および魚類を対象として進めた.特に底生動物サブモデルは,これらの生息場である河床構造解析と生息場としての評価を結合したモデルの構築と,ダム周辺河川への適用を実施した.現地モニタリングデータとの比較より,本モデルではダム上流及び下流など各地点の河床材料構成割合を詳述できないまでも,これらの地点間の傾向を再現するに至った.また,底生動物群集構造についても,地点間の特徴を概ね再現することができた. 現在は,水系一貫解析を対象とした河川生態系モデルの検証に向けて,本数値モデルの実河川への適用と,現地調査の準備を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画1年目に予定していた,水系一貫物質循環・生態系統合モデルの構築が概ね完了し,本数値モデルの特性を把握するための各パラメータの感度分析や,重要な物質循環プロセスの抽出を仮想的なモデル河川を対象として実施することができた.これらの成果に基づき,本数値モデルの精度向上に必要な検証作業を次年度に実施する計画である. また当初の計画に加えて,既開発のモデルでは考慮されなかった魚類(雑食,藻食性魚類)および底生無脊椎動物(捕食者)の生態系モデルへの導入を図ることができた.特に,底生無脊椎動物については,これらの生息場である河床構造の評価手法を含めた現地観測データとの検証を実施するなど,本数値モデルの部分的な検証についても進展している.
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今後の研究の推進方策 |
数値解析モデルの構築が概ね完了していることから,このモデルの再現性を検証することが主要な課題となる.したがって,河川縦断的な景観変化に応じた河川生態系や物質循環に関する特徴を現地観測に基づいて抽出し,これら観測結果とシミュレーション結果との比較からモデル精度の検証を進める予定である.また本数値モデルを用いて,現地観測が困難である物理基盤,物質循環および生物相の系内や系間で卓越するプロセスを推定し,河川生態系の構造の理解に繋げていく. さらに前年度に引き続いて,物質循環に与えるパラメータ毎の強度や重要な物質循環プロセスについての確認作業を追加して実施することで,本数値モデルが有する応答特性を把握すると共に,モデルの再現性の向上に必要なデータの充実を図り,モデルの改良へと繋げる計画である.
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