研究課題/領域番号 |
15J10769
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
千成 恒 北里大学, 感染制御科学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 光延反応 / マクロエーテル化 / 収束的合成 / 全合成 / アクチノアロライド |
研究実績の概要 |
顧みられない熱帯病の1つであるトリパノソーマ症の治療薬創製を目的として、当研究所で見出されたアクチノアロライド類の全合成研究に着手した。アクチノアロライド類はトリパノソーマ原虫に対して、既存薬に匹敵する非常に強い抗原虫活性を有する化合物群であり、その構造活性相関の解明を目指し合成展開を行った。 前年度までに合成を完了していた、レフト、センター、ライトパートをカップリング反応によって連結した全合成鎖状中間体より、種々の官能基変換によって標的の化合物であるアクチノアロライドAの全合成を目指した。また、同時並行にて行っていた天然物の半合成的誘導体化によって得られた情報を基に、合成中間体より派生させることで誘導体を合成した。その結果、天然物の有する側鎖部分にあたるユニットに活性があることを見出した。特にライトパートに相当する部分が活性に重要であることが示唆されたため、全合成においてはこの部分を網羅的に変換可能にするため、アクチノアロライドのマクロ環部位の骨格を形成した後に、側鎖を導入することとした。前年度に報告した、レフト、センターパートを連結した化合物から、天然物のマクロ環上の全ての不斉中心の立体化学を構築し、更に鍵反応である光延反応を用いたマクロエーテル化によって大環状構造を形成することができた。現在はもう1つの鍵反応であるベンゼン環からβケトエステルへの変換の検討を行っており、引き続き全合成を目指す。また、全合成中間体からの誘導体合成も行うことで構造活性相関の解明を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の交付申請書の研究実施計画では、前年度までに合成を達成している鎖状中間体より、天然物の全合成経路を確立すると記載した。しかしながら、鎖状中間体の合成においては、カップリング反応の収率が3割程度であり、化合物の量的供給が困難であったため、その後の分子変換の検討を行い、天然物の全合成を達成することはできなかった。そこで、まずカップリング反応の再検討を行い、化合物の量的供給可能な経路へと変更した。更にそこから天然物の有する全立体化学の構築、鍵反応の1つであるマクロエーテル化の条件を見出すことに成功した。天然物の全合成には残りのもう1つの鍵反応であるベンゼン環からのβケトエステルへの変換が重要課題であり、現在までにモデル基質を用いることで反応が進行する条件を確立しており、実際の基質への適応を検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに合成を完了しているマクロ環化体より種々の官能基変換を経た後、鍵であるバーチ還元条件によるベンゼン環の還元に続く、エノールエーテルの選択的な酸化開裂を行う。本反応はモデル基質を用いた実験によって反応条件の確立に成功しており、その条件を適応することで目的のβケトエステルを得ることができると考えている。またその後は、天然物の有する特異な構造である、マクロ環内の5員環ヘミケタールの構築、更にはライトパートとのカップリング反応の検討を行うことで、標的の天然物の全合成を達成する。全合成経路の確立に成功したのちに、側鎖部分のより詳細な構造活性相関を解明するためにライトパート部分を網羅的に変換し、随時活性評価を行う。そこで得られた情報を基に天然物の生体内代謝安定性を向上させるため、ラクトン部分を改変した誘導体を創製し、動物試験を含めた詳細な活性評価を行うことで、新たな抗トリパノソーマ薬の創製につながると期待する。
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