本研究は、低速RIビームによる多重クーロン励起実験により原子核の様々な変形について探るため、必要な実験装置の開発や、対象とする核種を検討するための理論的及び実験的な事前研究を進めることが目的である。本年度は、引き続き低速RIビームによる多重クーロン励起実験を行うための検出器やデータ取得系の開発と、昨年度得られた低速ビームを用いない手法による不安定原子核の変形の調査結果について論文の執筆を行った。 本研究で計画する実験手法では、クーロン励起によるインビームγ線を測定するため、位置分解能を持つGe検出器アレイであるGRAPE[1]を用いてドップラーシフトを補正する計画である。位置検出精度向上のため、検出器の波形データのより高度な解析を考えている。このためのデータ取得系の高速化として、DSPモジュールのGiga bit ether化とSiTCPを用いる改良を昨年度実施した。本年度はこれを実験で使用できるようソフトウェアの開発を行い、一般的に想定されるインビーム実験において用いることができるだけのレート耐性が実現していることを確認した。 また、低速RIビームによらない手法として行った核異性体及びβ-γ核分光実験の結果をまとめ、論文の執筆、投稿を行った。特に、150Csからのβ崩壊の測定によって150Baの励起状態を初めて確認した。新しく見つかった150Baの励起状態の中には、八重極振動に起因すると考えられるものがあり、150Baに大きな八重極相関があることを示唆する結果となった。今後より直接的に原子核の変形について知ることのできるクーロン励起実験が可能となれば、八重極のような高次の変形について理解を深める研究も行うことができると期待される。
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