研究課題/領域番号 |
15J10793
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 要一郎 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 『サッダニーティ』 / バーヴァパダ / 『サッダニーティ・ティーカー』 |
研究実績の概要 |
本年度はパーリ文法学文献『サッダニーティ』第一巻冒頭に見られ、著者アッガヴァンサに特異と思われる「バーヴァパダ」と呼ばれる「態」の設定を行う一連の議論の研究を発表した。 『サッダニーティ』は、時代的に先行するパーリ語文献に対する文法学書であるため、その記述は当然ながらパーリ語の性格を反映せざるを得ない。ところが、文法学という体系は、そもそもサンスクリット由来のものである。パーリ文法学文献は、サンスクリット文法文献に強い影響を受けながら成立しており、ただ単にサンスクリットの文章をパーリ語に置き換えただけという場合も少なくない。ここにおいて、サンスクリット文法学の体系が、無批判にパーリ語の記述に適応されるという事態が発生した。 『サッダニーティ』は、パーリ語とサンスクリット語の差異に自覚的であり、サンスクリット文法学において見られる体系に変更を加え、パーリ語を記述しようとした。そのような態度が、この「バーヴァパダ」論においてはよく見受けられる点が理解された。しかし、同書の基礎としたパーリ文献それ自体は、必ずしも『サッダニーティ』の理解に沿うかたちで理解されるものではない。この点は、既に同書注釈である、近年発見された『サッダニーティ・ティーカー』ビルマ写本に明らかであった。 この同書注釈『サッダニーティ・ティーカー』は現在まで刊本のかたちでは出版されていないが、『サッダニーティ』の伝統的解釈を理解する上で重要であると思われる。そのため、本年度はこの写本の読解を併せて行うことになった。本年度はおおよそ、第一巻の半分程度までの注釈(貝葉写本にして120枚ほどである)をおおまかに翻刻した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
近年発見された『サッダニーティ・ティーカー』写本を併せて読解を進めているため、進行が若干遅れることになった。
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今後の研究の推進方策 |
『サッダニーティ』の言語観・聖典観を探ることとする。アッガヴァンサは、パーリ語とサンスクリット語の差異を強調する場合が多い(今年度の研究の主眼であった「バーヴァパダ」論でもそのようであった)が、そもそもパーリ語とは彼にとってどのようなものであったのかは、従来の研究においてもあまり明らかにされてはいない。『サッダニーティ』内部に見られる、具体的な論争から、彼の言語観を理解しようと試みる。具体的には、「呼格」の語形における、末尾の母音が延長されるか否かをめぐる議論等を資料として用いようと考えている。 今後も、『サッダニーティ』の伝統的な解釈を知る上で重要な資料である『サッダニーティ・ティーカー』を併せて使用する。『サッダニーティ・ティーカー』全体の本文、また、この文献に関する性質等に関して、何らかの形で公表したいと考えている。
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