研究課題/領域番号 |
15J10795
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大森 啓介 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 糖尿病網膜症 / SDF-1α / CXCR4 / 血管透過性 / 血管新生 / マクロファージ / PDGFRβ |
研究実績の概要 |
糖尿病網膜症は糖尿病三大合併症の一つであり、年間3,000人が失明する重篤な視覚障害である。本疾患に対する予防法や根本的な治療法はなく、その開発は急務である。私はマウスに抗Platelet-derived growth factor receptor β(PDGFRβ)抗体を投与して網膜血管壁へのペリサイト集積を阻害することで、糖尿病網膜症モデルを迅速かつ簡便に作製することが出来ることを見出した。本研究ではこのモデルを用い、糖尿病網膜症における内皮細胞の特徴を解析することを目的とした。 生後1日の新生仔マウスに抗PDGFRβ抗体を腹腔投与し、生後8日の網膜組織を免疫染色によって観察したところ、ペリサイト消失に伴って血管壁が拡張・蛇行し、バリア構造が破綻していた。網膜血管内皮における遺伝子発現を網羅的に解析した結果、網膜症の発症に伴って、ケモカインの1つであるStromal cell-derived factor-1α(SDF-1α) の発現が強く誘導されていた。SDF-1αの受容体であるCXCR4の阻害剤の投与は、抗PDGFRβ抗体処置による血管の拡張や血管透過性の亢進、マクロファージの浸潤を有意に抑制した。CXCR4は内皮細胞に多く発現しており、実際に内皮特異的CXCR4欠損マウスでは抗PDGFRβ抗体処置による症状が弱くなっていた。 抗PDGFRβ抗体投与により作成した糖尿病網膜症モデルにおいて、血管内皮で産生されたSDF-1αは内皮のCXCR4受容体を介して遊走・接着シグナルを増強し網膜間質へのマクロファージの浸潤を促していることが分かった。浸潤したマクロファージは種々の炎症性物質を放出し、血管透過性や血管新生を亢進させることで、浮腫や出血といった糖尿病網膜症の病態を進行させることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は糖尿病網膜症時の血管内皮に着目して網羅解析を行っており、糖尿病網膜症時の血管の特徴を知ることが出来たため。 網羅解析の結果、網膜症においてSDF-1αが顕著に発現増加し、網膜症の病態進行に関与していることを見出したため。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き様々な疾患における血管に着目し、正常時との形態的・機能的違いを明らかにすることで、血管を標的とした新規治療標的の探索を行いたい。
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