研究課題/領域番号 |
15J10804
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
MENDBAZAR OYUNTULGA 奈良大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ポリエチレングリコール含浸法 / 真空凍結乾燥法 / 糖アルコール含浸法 / 高級アルコール含浸法 / トレハロース含浸法 / トレハロース含浸法を用いた自然乾燥法 / アクリル樹脂パラロイド(B72)を用いた処理法 |
研究実績の概要 |
今年度は、出土した木製品の劣化状況に対して、どのような保存処理が適用可能かを検討した。具体的には、モンゴル国から取り寄せた木製品のサンプルと現生試料をポリエチレングリコール含浸法、真空凍結乾燥法、糖アルコール法、高級アルコール含浸法、トレハロース含浸法、トレハロースを用いた自然乾燥法、アクリル樹脂パラロイドを用いた処理方法で実験した。現生試料における各組織状況・成分含有量を把握した上で、各処理過程とそれに伴う変化を記録することは、これまでモンゴルの出土木製品に対しては行われていなかった試みである。 今年度の実験した保存処理法の中で、木製品においては、トレハロース含浸処理法が最も有効であることが分かった。なぜなら、出土含水木材と出土後乾燥した木材ともに内部に十分なトレハロースの結晶が確認できたことで、トレハロース水溶液の浸透力が含水木材と出土後乾燥した木材にも同様に浸透力が高いことがわかったからである。モンゴル出土木製品は、日本のものと比較して、含水量が少なく、出土後乾燥してしまうという特徴がある。また、トレハロース水溶液は、浸透し結晶化することにより強化でき、温度の低い環境下においても結晶化しやすい特徴がある。これらの特徴から、乾燥気候や低温度下のモンゴルでも出土木製品を安定的に維持できる可能性が高く、モンゴルの保存環境設備下で“安価”、“簡易に作業できる”、“短期間”で行えるトレハロースを用いた含浸処理法が最も期待できる結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、モンゴル各地で出土している木製品の遺物サンプル、現生試料を数多く収集し、出土状況を把握し、モンゴル国における保存処理の最適な方法を検討するために、様々な処理方法を実験した。その中から、モンゴルの環境に適した保存処理方法の1つとして、トレハロース含浸処理法が有効的であることを実証した。また、モンゴル国立カラコルム博物館において、年間を通じて温湿度がどのように変化するのかを調べるために、長期的に記録できる環境を整備した。このデータは、モンゴル国において、保存技術を発展させるための基礎データとなり非常に重要な意味を持つ。 さらに、今年度は、日本のみならず、韓国、モンゴル、中国、ロシアにおいて、研究発表を行うとともに、様々な研究者と交流を行い、国際的な研究活動を行った。また、カラコルム博物館において「博物館と発展2015」研究学会で有機質物の保存修復方法に関するワークショップの講師を務め、モンゴル国の保存処理技術の普及活動にも積極的に取り組んだ。
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今後の研究の推進方策 |
1年目の成果を踏まえて、モンゴルの多様な出土木製品それぞれに合った①保存処理方法を確立し、モンゴルから出土した②実物資料に対して保存処理を行う。 ①保存処理方法の確立は、木製品の樹種や用途、さらに乾燥や凍結などの出土状況などを複合的に検討し、それぞれに合った保存処理方法を開発する。ポリエチレングリコール含寝法・トレハロース含寝法日本の技術を応用するとともに、硬化剤の吹きかけや塗布など様々な方法で実験し、薬品の濃度を変えるなどして、各々の木製品に最も適した独自の保存処理方法を探る。 ②実物資料に対しての保存処理は、すでにモンゴル考古学研究所、カラコルム博物館から許可を得ている。実験は所属大学である奈良大学で行うが、実際の木製品への保存修復は現地において行う。研究成果は日本やモンゴル、韓国の国内学会および国際学会において発表する。
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