2012年のATLAS・CMS両実験によるヒッグス粒子の発見により標準模型は完成されたと言えるだろう。しかし、宇宙観測から強く示唆される暗黒物質の存在や、ニュートリノ振動など、標準模型では説明できない現象は未だ数多くあげられる。これらを解決する物理模型として代表的なものが超対称性 (SUSY) である。ヒッグス粒子の質量の観測値から、シンプルなSUSY模型ではスカラーSUSY粒子の質量は数TeVから数PeV領域に制限され、ゲージーノなどのフェルミオンSUSY粒子は暗黒物質残存量の制限からO(100-1000) GeV領域に存在すると予想される。この仮定では、グルイーノはLHCがカバーできるエネルギー領域に存在し、また、カラー保存から崩壊には重いスカラー粒子を介さなくてはいけないため、グルイーノが超寿命になる。こうした中で本研究ではLHC-ATLAS実験において、準安定グルイーノの崩壊由来の二次崩壊点 (displaced vertex) と安定なニュートラリーノ由来の横方向消失エネルギーを終状態とするグルイーノ対生成事象の探索を行った。標準の飛跡再構成を行なった後に、そこで用いられなかったヒット情報のみを用いて再度飛跡再構成を行うre-trackingと呼ばれる手法を用いてビーム衝突点から離れた位置から生じる荷電粒子の飛跡の再構成効率を大幅に改善した。また、暗黒物質残存量から示唆される、グルイーノとニュートラリーノの質量差が100 GeV程度と小さいシナリオにも感度を保つため、re-tracking前の事象選択フィルタを最適化した。2016年に取得したデータに対して解析を行ったが、信号領域の中で背景事象に対して優位な超過は観測されなかった。統計・系統誤差を評価しグルイーノの生成断面積や質量のパラメータに対して95%信頼度で上下限値をセットした。
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