2型糖尿病の発症にはインスリン分泌不全が重要であり、一般的に、これには膵β細胞量の減少が伴う。これまでに、大豆イソフラボンの腸内代謝物であるS-エクオールがcAMP-protein kinase Aシグナルを活性化してβ細胞株INS-1の細胞死を抑制することを見出している。本研究では、①S-エクオールによるβ細胞の量と機能への影響を個体レベルで検証し、②S-エクオールの作用機構を解明することを目的とした。 ①飼育期間を通してS-エクオールを経口投与し、β細胞に障害を与えるストレプトゾトシン(STZ)を低用量で複数回投与するモデルを用いてマウスの糖尿病発症へのS-エクオールの影響を検討した。STZ投与終了5日後に糖負荷試験を行った結果、S-エクオール投与群で糖負荷後の血糖値上昇が抑制され、糖負荷15分後の血中インスリン値は上昇傾向であった。一方、インスリン負荷試験ではS-エクオール摂取の影響はなかった。S-エクオール投与群ではβ細胞量が多く、細胞増殖マーカーであるKi67陽性細胞の比率が上昇し、TUNEL染色陽性のアポトーシスが誘発されたβ細胞の割合が低下した。 ②S-エクオールがGタンパク質共役受容体(GPCR)に作用する可能性を評価するため、リガンドが結合したGPCRを脱感作させるGPCRキナーゼ(GRK)の影響を検討した。GRK3と6のsiRNAによるノックダウンと発現ベクターによる一過的な高発現は、それぞれS-エクオールによるcAMP応答配列(CRE)を介した転写活性を増幅または減弱させた。三量体Gタンパク質のGαsサブユニットのノックダウンにより、S-エクオールによるCREを介した転写活性の上昇、細胞増殖の亢進、細胞死の抑制、およびインスリン分泌の促進がすべて抑制された。 以上の結果から、S-エクオールは、in vivoにおいてβ細胞に作用して糖尿病の発症を抑制すること、また、細胞膜のGPCRを介してcAMPを産生しβ細胞の量とインスリン分泌能を増加させることが示唆された。
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