今年度はまず、犬角膜上皮細胞の増殖能維持機構の探索を行った。犬角膜上皮初代培養細胞および本研究で樹立した犬角膜上皮細胞株の培養上清をウサギ角膜上皮細胞に添加したところ、増殖を促進する傾向を認めた。一方、ウサギ角膜上皮細胞の培養上清を犬角膜上皮細胞(第1継代細胞)および細胞株に添加したところ、増殖が有意に抑制された。また遺伝子発現解析では、犬角膜上皮初代培養細胞と細胞株で角膜上皮の増殖促進作用を有する複数のEGF受容体リガンドが高発現していた。一方、ウサギ角膜上皮初代培養細胞では増殖抑制作用を有するCTGFとTGF-β2の高発現を認めた。以上より犬角膜上皮細胞の増殖能維持機構として、増殖促進因子の自己分泌もしくは増殖抑制因子の低分泌が示唆された。 また、犬膜上皮細胞株から作製した細胞シートを犬角膜損傷モデルへ他家移植し、移植の安全性と有効性を検討した。シートは無縫合で移植し、対照群では損傷作製のみ行った。術後、移植群では早期の上皮化が得られたが、その後、上皮のターンオーバーが原因と考えられるシートの縮小とシート周囲のフルオレセイン陽性領域を認めた。対照群と比較し、移植群では角膜混濁が軽度であった。移植後7日目に角膜組織を採材し、病理組織学的評価に供した。細胞シート中の上皮の配列は不正であったが、移植部直下の角膜実質では、対照群と比較し炎症細胞の浸潤、角膜混濁の原因となる筋線維芽細胞の増殖が軽度であった。細胞シートへの明らかな拒絶反応所見は認められなかった。安全性についてはより長期の観察が必要であるが、細胞株由来シートの移植は、上皮組織の早期再建や角膜混濁の軽減が期待され、角膜再生療法として有用であると考えられた。
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