昨年、鳥のGPS経路データから風と鳥の体軸方向を推定する新手法を本研究課題で開発した。本年度はその推定精度を検証するためのデータ収集を行った。岩手県の研船越大島で繁殖するオオミズナギドリを繁殖島から100km離れた沖へ観測船で運び、位置と体軸を計測できるロガーを装着して放鳥、同時に海上風を計測し、鳥の経路から海上風と鳥の体軸方向を推定する手法の検証用データを収集した。 また手法の改良をおこなった。昨年までの手法の欠点として、(1)経路全体のうち鳥が直線的に移動しておりかつ風の変化が少ない部分のみにしか適用できない。(2)鳥の対気速度の値は解析者が事前に与える必要がある。といった欠点があった。これらの欠点を解決するため、推定手法の核となっていたランダムウォークモデルを状態空間モデルに拡張した。精度検証のため、この新手法を、シミュレーションによって人口的に生成したあらかじめ答え(鳥の体軸方向、対気速度、風向風速)のわかっている経路データに適用したところ、正しく体軸方向と風の時間変化を正しく推定し(問題(1)の解決)、鳥の対気速度も高い精度で推定することができた(問題(2)の解決)。 上記の改良した手法を、亜南極で繁殖するワタリアホウドリの経路データに適用した。収集されたワタリアホウドリの何羽かは帰巣時に長さ数100km、幅数10kmにわたる奇妙なジグザグの移動パターンが見られた。新手法による推定の結果、ジグザグ帰巣時は風が目的地である繁殖地の方向に風が吹いていたことがわかった。これはワタリアホウドリが追い風をあえて避けていることを意味している。これまで鳥にとって追い風は移動コストをさげる好ましい状況と考えられてきたが、今回の発見はこの常識を覆すものである。
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