研究課題/領域番号 |
15J10990
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
加藤 詩乃 青山学院大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 美術史 / 書道 / 文字 / 比較 / 写経 / 東アジア |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究実績は、まず国内においては、5月に奈良国立博物館において滋賀・見性庵所蔵『大般若経(和銅五年長屋王願経)』の調査を実施した。撮影した画像データを用いて、中国の各時代の写経と比較し、全43帖の経文の書風を分類した。その結果、経文の書写者やそれぞれの書風に関する本経の制作状況についての貴重な新知見を得ることができた。その結果は、報告書にまとめ関係機関へ提出し、学内で調査報告を行った。引き続き、他の所蔵先の巻についても調査を行い、全体を把握したところで論文等にて公表する予定である。また、中国書法の直接的な受容が続いている9世紀初期までは、場合によっては対象に含むべきであると考え、現在東寺所蔵の『真言七祖像』(805~812)にみられる、造形的な字形とその元となった中国書法について考察を進めている。その研究成果の一部は、『第69回美術史学会全国大会』にて口頭発表を行う予定である。 国外では以下の現地調査を実施し、中原とその周辺地域、そして山東地方の文字資料を収集した。 1、9月6日~12日:中国(西安、洛陽) 西安碑林博物館、陝西省博物館、慈善寺石窟、昭陵、洛陽博物館、千唐誌斎、鞏県石窟、偃師商城博物館等 2、10月6日:韓国(ソウル) 国立中央博物館等 3、3月27日~31日:中国(済南、泰安、青州) 山東省博物館、済南市博物館、泰山、青州博物館、駝山、黄石崖 以上、各地の博物館、石窟等で、中国では北魏~初唐時代、韓国では三国~統一新羅時代を中心とした墓誌銘や造像銘などの撮影を行った。現在はその整理を進めている状況であるが、同時代においても書風に大きく地域差が認められることが確認された。特に、山東地域において書風の地域性が強く見られ、今後、他の地域についても調査・撮影を行っていく必要があるとの見通しを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由は、第一に中国(西安、洛陽、済南、泰安、青州)と韓国の現地調査の成果として、同時代においても書風に大きく地域差が認められることが改めて確認されたこと。特に、山東地域において書風の地域性が強く認められるという知見が得られたことである。だだし、現地調査の経費が計画当初の予定よりも必要となったことで、写真データ整理のための人件費が確保できなくなってしまった。そのため、予定していた比較考察のためのデータベース作成が遅れている状況である。 第二に、5月に実施した滋賀・見性庵所蔵『大般若経(和銅五年長屋王願経)』の調査において、その後の比較考察から各書風の分類や対応する中国写経の時代など、期待以上の成果が得られたことである。他の所蔵先の巻も引き続き調査を進めることで、当経の制作状況がより鮮明に把握できるという見通しが得られた。以上の進歩状況は、次年度以降の研究へと繋がる成果として大きく評価できるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、中国、朝鮮半島への現地調査を実施し写真データを収集する。具体的には、山東省の未調査地域と四川省、浙江省の特に南朝地域を中心とした調査を行う。次年度も同様に、年代や対象別の編年を作成しながら、初年度に考察した中原地域の変遷との相違に着目し、地域的特色を把握する。 国内については、京都国立博物館、東京国立博物館寄託分の『和銅五年長屋王願経』の調査、及び引き続き6~8世紀の文字資料の写真データ収集を行う。若干の変更点としては、中国書法の直接的な受容が続いている9世紀初期までは、場合によっては対象に含むこととする。具体的には、数が限られている8世紀前後の碑文の例として、9世紀初めまで下る作例であるが、『大和州益田池碑銘並序』を考察に加えたいと考えている。当資料は「雑体書」と呼ばれる、通行の書体とは異なる特殊な書体で書かれたものであり、中国・南北朝時代以降の影響がみられる希少な例である。よって、本研究でテーマとしている書風基準に加える必要があると考える。 以上の各々の調査結果については報告書にまとめ、必要に応じて論文、学会発表等にて公表する。最終的には、6~8世紀における日本書道史の全貌を中国・朝鮮半島の文字資料と対照させ、総合的にまとめる方針である。
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