研究課題/領域番号 |
15J10995
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柴山 茂久 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | HfO2 / 強誘電体 / 信頼性 / ピエゾ応答力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
超低消費電力トランジスタの実現に向けて、当初はゲルマニウムスズを用いたSteep-SトンネルFETに着眼していた。一方近年では、強誘電体と常誘電体の直接接合構造によって負性容量を発現出来れば、従来のMOSFET構造であっても、Steep-Sトランジスタが実現可能であり、注目を集めている。さらに、既往のプロセスで高誘電率絶縁膜として利用されているHfO2が強誘電性を示すと報告されている。これはHfO2の強誘電性を精緻に制御できれば、既存のプロセスの延長で、Steep-Sトランジスタを実現できる可能性があることを意味しており、大変興味深い。そこで、当初の研究計画から大幅に逸れることになってしまったが、強誘電体HfO2の電子デバイス応用に向けた研究に着手した。 HfO2はペロブスカイト系の強誘電体とは違い、強誘電相が熱力学的最安定構造ではない。従ってHfO2膜中では、強誘電性や常誘電性領域の混在、即ち様々な境界が存在すると容易に予測できる。強誘電体を電子デバイス応用する際、信頼性が重要であり、ナノスケールで境界の影響を理解する必要がある。本年度は、スイッチング特性と、分極反転後の保持特性の二点に着目し、ピエゾ応答力顕微鏡(Piezo-response force microscopy、PFM)を用いて、HfO2膜の局所ドメイン構造の直接観察を行った。 ナノスケールで面内の分布構造を観察した結果、HfO2膜中には,常誘電性を示す領域と強誘電性を示す領域が混在していることが分かった。また、強誘電性ドメイン中において、抗電界のばらつきが確認できた。分極反転電界の増大にともない、抗電界の小さな領域から、分極反転領域が徐々に広がっていく様子が観察された。また、分極反転領域の保持特性を調べるため、分極反転領域の緩和過程を調べたところ、分極緩和はドメイン境界から支配的に起きることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度前半では、知識の習得や、ピエゾ応答力顕微鏡(PFM)の立ち上げに注力した。後半では、HfO2のドメイン構造をPFMで観察した結果を、国際学会や国内学会で発表するなど、それらを成果として結実させることができた。また、平成28年度に開催されるVLSIシンポジウムに採択されており、今後ますますの進展が期待できると考えている。次年度以降では、学会発表だけでなく、論文発表も積極的に行い、外部に成果を報告していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
強誘電体HfO2の研究をさらに推進していく予定である。具体的には、疲労特性などの強誘電特性に対して、ドーパントが与える影響に重点を置く。既往の報告では、カチオンドーピングによって結晶構造を精緻に制御し、その結果、強誘電性を制御できると考えられている。しかしながら、ドーパントに応じて、イオン結合性や共有結合性に違いがあり、HfO2膜内部での原子の動き方に影響を与えると容易に予測できる。こうした結合性の違いは、一見するだけでは分からず、疲労特性といった信頼性に関わる部分で大きく影響すると考えられる。また、ドーパント種の違いによる強誘電性ドメインの面内均一性も興味深いと考えている。 そこで、電気的な強誘電特性評価に加えて、PFMを最大限に活用して、ドーピングが強誘電特性やその信頼性に与える影響を明らかにすることを目標とする。最終的に、HfO2の誘電特性を制御する上での、ドーピングのガイドラインの提案を目指したい。
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