昨年度までに,HfO2の強誘電相は,Tetragonal(T)相とMonoclinic(M)相の共存状態において発現することを報告してきた.通常のドーパントでは数%ドーピングした場合にのみ強誘電相が安定化されるが,Zrドーピングの場合のみ,広いHf/Zr濃度で強誘電相が安定化される.最終年度では,このZrドーピングの特異性を理解することを目的とし,ZrO2サイドから強誘電相の発現過程について調べた. 薄膜ZrO2では,HfO2と異なり,T相が支配的に形成され,反強誘電性を示した.またZrO2のT相は熱的に安定であり,熱処理やドーピング等によってT→M変態は生じなかった.そもそもHfO2とZrO2では,バルクの相図より(1)互いに類似した相変態過程を有すること,(2)T→M変態温度はZrO2の方が低いため,ZrO2はHfO2よりT相を安定化しやすいはずであるという類似点と相違点がある.薄膜ZrO2におけるT相の安定性は(2)の特徴より熱力学的に理解可能である.またT相の安定性の違いに着目すると,ZrO2にとってHfO2は,熱力学的に,T相よりもM相を安定化させる側に位置しているため,これらの混晶系では広い濃度範囲でT相とM相の共存状態が実現されると理解できる.また,(1)の特徴に注目し,アンドープZrO2においてもT相とM相の共存状態が実現されれば強誘電相を発現するはずであると考えた.高温スパッタによって,ZrO2成長中にM相の核形成を行い,T相とM相の共存状態を実現した所,狙い通りアンドープZrO2でも強誘電相が発現することが分かった. 以上,HfO2およびZrO2といった二元系酸化膜,これらの固溶体であるHfxZr1-xO2における相変態過程は熱力学的な相図をベースに理解でき,これらの強誘電相はT相とM相の境界相として発現していると統一的に理解できることが分かった.
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