前年度,水晶振動子の座屈を抑えるセンサ構造を提案することで,高い強度を有する水晶荷重センサを実現した.しかし,水晶振動子を安定に固定するための保持層にシリコンを用いることで,熱膨張係数の違いから,温度特性が悪化することがわかった.本年度は,保持層に水晶振動子層と同じカット方面の水晶ウエハを用いることで,温度特性の改善を行った.水晶は異方性材料であり角度方向で熱膨張係数が異なるため,組立おいて角度方向のアライメント精度が求められる.保持層に水晶を用いたオール水晶のセンサ構造とアライメント精度の向上を行うことで,センサの温度特性の改善を実現した.温度特性の向上に伴い,センサの出力安定性が向上することで,センサの分解能が向上した.また,センサの耐荷重についても,座屈を抑えるセンサ構造によりセンサの破壊強度が向上し,製作したセンサは最大荷重600 N,最小分解能が0.4 mNとなり,最大荷重と最小分解能の比である計測レンジは1.5×106となった.また,製作したセンサ二つを回路基板上に搭載し,一方を温度リファレンス用のセンサとして用いた差動法による温度補償により温度感度は-0.4 Hz/℃となり,荷重に換算すると1 mN/℃となり,高精度な温度補償を実現した.製作した水晶荷重センサを用いた体重と脈波のマルチ生体信号計測に取り組んだ.実験に際して,4つのセンサをボードの四隅に配置し,ボード上にかかるすべての荷重を4つのセンサで分担する構造とした.製作した水晶振動式荷重センサを用いることで,体重と脈波の同時計測が可能であることを確認した. 更に,製作した水晶振動子荷重センサを用いて,3軸力センサの製作を行った.センサのキャリブレーションを行いることで,3つのセンサの出力から3軸の力計測が可能となった.以上の取り組みにより,超小型かつワイドレンジな荷重・力センサを実現した.生体信号計測に限らず幅広い応用が期待される.
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