本研究の集大成として、博士学位論文“Suicide and Euthanasia in Buddhism: Ethicization of the Narratives in the Pali Tipitaka”を1月27日に提出し、論文が受理された。6月中に審査され、9月に学位取得を予定している。併せて平成28年度には、自殺と安楽死の倫理課題を仏教文献に基づき検証し、以下の3点の成果を得た。 研究目的(1)「自己の意志による夭折」に関連して、まず、自殺を含む殺生に対する仏教倫理と西洋倫理との比較研究を行った。ここでは西洋倫理による仏教倫理の概念化を分析し、その概念化の問題点を明らかにした。次に、パーリ経典における比丘(出家修行者)の自殺が語られるパーリ経典三点を調査し、三経に対する後世の解釈(パーリ注釈書から現代の先行研究まで)を分析した。仏教倫理の先行研究では、悟りを得た者の自殺の是非が論点の一つであったが、申請者は対話によって進行する物語性に注目した。その研究成果を、9月の日本宗教学会第75回学術大会で「仏教と自殺―臨死の比丘をめぐる物語の主題―」の題目で口頭発表し、『宗教研究』第90巻別冊(2017年3月)に発表要旨を、『佛教学研究』73号(2017年3月)に論文「パーリ経典に描かれる比丘の自死と対話の意味:死の受容と終焉の観察」を発表した。 研究目的(2)「外的要因による夭折の文献研究」に関して、積徳行為である「生命の布施」を調査した。パーリ三蔵の『ジャータカ(本生経)』及び蔵外文献の『パンニャーサ・ジャータカ』で説かれる菩薩(ブッダの過去世)の捨身(命或いは体の一部の布施)を分析し、各物語における捨身の動機を明らかにした。 研究目的(3)「インタビュー調査」として、「自殺・自死に取り組む僧侶の会」副代表の藤尾聡允氏や他のメンバーに聞き取り調査をした。
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