研究課題
本研究では、過剰量のホウ素が植物の生育を阻害する仕組みの解明と、その毒性が進化に与える影響の評価を行っている。ホウ素の毒性機構の解明については、ホウ素過剰ストレスに対する耐性を付与する遺伝子の同定を目的として、ホウ素過剰感受性シロイヌナズナ変異株に変異を導入して得られていた抑圧変異株の原因遺伝子の同定を行った。抑圧変異株2ラインについてエコタイプ間塩基多型を利用した遺伝子マッピングを行い、原因変異の候補領域をそれぞれ1番染色体上の2.6Mbpの領域、5番染色体の4.5 Mbpの領域に限定した。またトランスクリプトーム解析によってホウ素依存的発現を示す遺伝子を探索し、ホウ素過剰耐性への関与が予想された遺伝子についてノックアウト株を確立しホウ素過剰ストレス下における表現型の確認を行った。その結果、活性酸素産種生酵素の一種を欠損した変異株が野生型と比較してホウ素過剰ストレス下において根の生育がよいことを発見した。ホウ素毒性が進化に与える影響の評価については、過剰量のホウ素がDNAの損傷を引き起こすことに着目し、栄養環境がゲノムの安定性に影響することで植物の進化の速度や方向性を変える可能性を検証している。これまでにシロイヌナズナの野生型、ホウ素過剰ストレス感受性変異株についてそれぞれ約100個体を通常区、ホウ素過剰区において栽培し、自殖による継代によって自然変異を8世代にわたり蓄積させた。最終世代の植物に対して、通常区、ホウ素過剰区それぞれについて4個体のゲノム配列決定を行った。検出された変異をもとに自然変異発生率を試算したところ、変異導入箇所数の平均はホウ素過剰区が通常区の1.7倍となり、検査した個体群においてはホウ素過剰ストレスが自然変異の発生を促進する傾向が見られた。
2: おおむね順調に進展している
ホウ素過剰耐性を付与する遺伝子の同定については、原因遺伝子の確定には至ってはいないものの候補領域を限定した。次世代シーケンサによる変異情報の取得も完了しており、候補変異のリストを得ている。一部の候補遺伝子についてはノックダウン株の作成が進んでいる。ホウ素毒性が進化に与える影響の評価については野生型株では一部継代の遅れがあったものの、目標の世代に達した個体から順次次世代シーケンサによる配列決定を行っており、おおむね予定通り進行している。
ホウ素の毒性機構の解明については、候補遺伝子のうち有望なものについて変異株の表現型確認を行う。並行して候補領域の更なる絞込みを行う。ホウ素毒性が進化に与える影響の評価については、より多くの自然変異蓄積系統個体を次世代シーケンサによるゲノムDNAの配列決定に供し、自然変異の蓄積を評価する。得られた変異情報に基づいて、ホウ素過剰ストレスが自然変異の蓄積頻度に影響を与えるかどうかを統計的に示す。合わせて自然変異のバイアスの解析を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Journal of Experimental Botany
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
doi:10.1093/jxb/erw043