本研究では、マルチメッセンジャー観測を実現するためKAGRAの開発を行っている。KAGRAは岐阜県飛騨市神岡町に建設されている片腕3kmの長さを持った干渉計型重力波望遠鏡で、特に地面振動の小さい地下環境であることなどが大きな特徴である。本研究員は特にKAGRAにおける観測の安定化、および長時間化に重点をおき、干渉計に使用される鏡を吊るす防振装置の開発、改良を行った。KAGRAでは、干渉計の鏡への地面振動の影響を低減するため多段の振子として懸架することで防振を行う。この振子の効果により10Hz以上では地面振動による雑音は低減する一方、低周波数では振子の共振モードが立つため、一度制御の失敗などで鏡を大きく揺らしてしまうとその周波数での揺れがなかなか減衰せず、干渉計の制御に支障をきたしてしまう。この揺れが収まるまで待っていたのでは観測時間のロスになってしまうため、フィードバック制御によって能動的に共振をダンピングすることが重要である。 今年度は特にKAGRAのアップグレードに向けた追加のダンピングシステムの設計・製作を行い、KAGRAにて組み立て・性能試験を行った。本設計・開発には国立天文台の先端技術センター(ATC)、イタリアの重力波望遠鏡Virgoグループとの協力、共同研究が含まれている。この結果、今回新たに設計、追加したシステムによってすべての共振モードが約1/10程度まで適切にダンピングされていることが確認できた。このダンピングシステムによって、鏡の揺れる速度を干渉計を制御するのに十分なほど抑え込むことができる。また、本ダンピングシステムによって鏡の揺れの減衰時間も低減することが可能となり、観測時間の増加も期待される。
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