昨年度は、けい皮アルデヒド類を原料とした炭素―炭素結合開裂反応の最適条件を探索し、添加剤の種類に依存した位置選択的炭素―炭素結合開裂反応として、スチレン合成とベンズアルデヒド合成を確立した。 本年度は、ケイ皮アルデヒドのアルケン部位の結合開裂反応により生成するスチレン誘導体と一酸化炭素を、それぞれ溝呂木-Heck型反応とカルボニル化反応にワンポットで利用した、スチルベン誘導体と芳香族エステルへの骨格変換反応を探索した。その結果、ケイ皮アルデヒドだけでなく、テレフタルアルデヒドが効率のよい一酸化炭素源であることを見出し、様々な芳香族ヨウ素化合物のカルボニル化反応を達成した。また、2つの耐圧ガラス試験管をガラス管で連結したH型反応容器を用いて、ケイ皮アルデヒド類を原料とした原子効率の高い骨格変換法を同時に進行させる方法論として確立した。この結果から、ケイ皮アルデヒド誘導体をスチレンキャリア及び一酸化炭素キャリアとして利用できることが明らかとなったため、現在学術論文として作成し、Chem. Eur. J.にin pressされた。 さらに、カルボニル基が芳香環に直接結合したフェニルアルキルケトン類を基質とした場合には、不均一系遷移金属触媒的にカルボニル炭素とアルキル鎖側を結ぶC-C結合が開裂し、安息香酸とともに脂肪族アルデヒドと脂肪族カルボン酸が生成することが確認された。そこで、ルテニウム炭素(Ru/C)触媒下水中で進行する、酸素を酸化剤としたC-C結合開裂反応による、フェニルアルキルケトン類から安息香酸誘導体への効率的な変換反応の確立とともに、アルキル鎖側に由来する脂肪族アルデヒドや脂肪族カルボン酸の生成経路の解明を達成したため、該当する研究成果をまとめ、論文投稿準備中である。
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