研究課題/領域番号 |
15J11083
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 直也 名古屋大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | ホスホニウム塩 / 有機触媒 / 不斉合成 / 有機化学 / オキサジリジン |
研究実績の概要 |
申請者はこれまでに、キラルトリアミノイミノホスホランと過酸化水素から生じるホスホニウムヒドロペルオキシドを酸化活性種とする不斉酸化反応の開発に取り組んできた。本年度は、不活性なC-H結合の立体選択的な酸化反応を実現するための足掛かりとなることを期待し、N-スルホニルα-イミノエステルから誘導できる電子求引性置換基を備えたオキサジリジンの構造活性相関を調べた。すなわち、スルホニル基、芳香環置換基、エステル基の各置換基がオキサジリジンの立体的・電子的状態に影響を及ぼす点に着目し、これらの構造修飾を通してオキサジリジンのキラル酸化剤としての性能を自在に調整できることを新規骨格をもつオキサジリジンの不斉合成法の開発と、得られたオキサジリジンの機能評価によって明らかにした。イミンの酸化反応においては、以前当研究室から報告したN-スルホニルアルジミンの不斉酸化反応とは異なり、反応の進行のためにトリクロロアセトニトリルの添加を必要としないことに加え、過酸化水素のみを酸化剤として用いた場合の方が高い選択性で反応が進行した。また、本法を用いて合成したオキサジリジンをキラル酸化剤として、プロピオナフトンから誘導したシリルエノールエーテルを基質とするRubottom酸化反応を行い、オキサジリジンの炭素上の各置換基の構造と反応速度および立体選択性の相関を評価することで、4-クロロフェニル基とt-ブチルエステルを有するオキサジリジンを最も性能の良い酸化剤として見出した。さらに、今回設計・合成したオキサジリジンは窒素上をスルホニル基で保護したプレニルアミン誘導体のエポキシ化反応においても高いエナンチオ選択性を示した。本研究成果は、これまでのオキサジリジンの構造多様性における限界を打ち破る手法を提示するとともに、キラルオキサジリジンの新たな合成化学的価値を実証するものと位置付けられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目的であるオキサジリジンを用いる選択的C-H酸化反応を開発するにあたり、オキサジリジンの構造多様性の拡張および構造活性相関を調べる必要があった。当該年度は、様々なN-スルホニルα-アリールα-イミノエステルから誘導されるキラルオキサジリジンの確立し、得られたオキサジリジンのキラル酸化剤としての機能評価を行った。その結果、シリルエノールエーテルおよびプレニルアミン誘導体の酸化反応において高いエナンチオ転写率で生成物を与える酸化剤の構造を見出した。現在のところ、オキサジリジンを用いる酸化反応に適用可能な基質は反応性の高い電子豊富なアルケンに限定されるが、オキサジリジンの構造と機能の相関について一定の知見を得たことで、今後の構造修飾および反応設計の基盤が構築できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに報告されているオキサジリジンによるC-H酸化反応には加熱が必要であることに加え、原料の転嫁率を上げるためには長時間反応を行う必要があった。また、現在不斉合成が可能なオキサジリジンの活性は低く、キラルオキサジリジンを用いた不活性C-H結合の酸化反応は未到の分子変換と位置付けられる。今後はこれらの問題点を打破する戦略として、オキサジリジンが光照射によりN-O結合の均等開裂を起こすことに着目し、ラジカル反応を利用することでこの課題に挑む。具体的には、光照射により活性化されたオキサジリジンのN-O結合が均等開裂して生じるNラジカルが基質の水素原子を直接引き抜き、ソルベントケージ内で引き続く酸素原子の供与が立体選択的に進行すると想定した検討を行う。
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