本研究では既に、有機塩基としてはたらくキラルトリアミノイミノホスホランと過酸化水素を用いるN-スルホニルα-イミノエステル由来のオキサジリジンの触媒的不斉合成法を確立し、これが構造修飾により酸素原子供与能と立体制御能を微細に調整できるキラル酸化剤として振る舞うことを実証している。また、この知見を基にイミノエステルとキラルイミノホスホランを触媒とした不斉Rubottom酸化反応の触媒化を実現することで、従来のオキサジリジンの利用範囲の拡大に成功している。本年度は、これまで合成したオキサジリジンのN-O結合の均等開裂によって生じるジラジカル種を鍵活性種として想定した、不活性C-H結合の選択的酸化反応の実現を目指した検討を行った。試みに、C-H結合の開裂によって炭素ラジカルが生じやすいベンジル位にヘテロ原子をもつ基質をモデルとして加熱条件での反応を試みたところ、オキサジリジンそのものの不安定さ故に分解反応が優先して進行し、望みの酸化反応の進行は認められなかった。この問題を克服するため、光増感剤の存在下に適切な光照射を行うことでN-O結合の均等開裂が促進できると期待して種々の検討を行ったが、分子内での転位反応やC-O結合の開裂によるニトロンの生成の抑制が難しく、C-H結合を選択的に酸化できる反応条件の確立には至らなかった。これらの検討結果は、望みの分子変換を実現するためにはオキサジリジンの各原子上の置換基の更なる検討により、N-O結合の開裂を促し所望の活性種の生成が有利とする必要があることを示している。
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