研究実績の概要 |
本年度はラジカル分子である1,3,5-トリチア-2,4,6-トリアザペンタレニル(TTTA)の単層膜の作成およびその構造と電子状態について検討することを目的として研究を行った。単層膜TTTAの作成は超高真空環境下でAg(111)およびCu(111)基板上にTTTAを蒸着することにより試みた。室温でTTTAを蒸着しただけでは、TTTAは基板上で秩序構造を形成することはなかったが、室温で蒸着後、Ag(111)基板の場合は約400K、Cu(111)基板の場合は約500Kまで加熱することにより秩序構造を低速電子回折(LEED)測定により確認できた。LEED像より、Ag(111)基板では単一の構造が形成されていることが明らかとなった。また、液体窒素温度近傍まで冷却することにより、その周期構造が変化することが明らかとなった。これらの高温での周期構造と低温での周期構造は加熱・冷却により繰り返し観測されることから、温度に対して可逆な構造変化であることが明らかとなった。このような状態は、Ag(111)基板とTTTAの相互作用およびTTTA分子間の静電的な相互作用の競合によって生じたものであると考えられるため、放射光を用いた光電子分光測定により電子状態および基板との相互作用について検討を試みたが、放射光施設での試料作成が困難であったため、それらの電子状態を解明するには至らなかった。来年度は、再度光電子分光測定を試みると共に、高磁場極低温装置を用いたX線磁気円二色性測定によえる磁気特性についても検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A.超高真空環境下においてAg(111)単結晶上に1,3,5-トリチア-2,4,6-トリアザペンタレニル(TTTA)の単層膜の作成を行うとともに低速電子回折(LEED)測定によりその周期構造を明らかにした。また、走査型トンネル顕微測定により、その構造を分子レベルで明らかにした。さらに、Ag(111)基板上のTTTA薄膜は高温400Kと低温100Kで周期構造が異なることを明らかにした。今後、電子状態に関する検討は必要なものの、試料作成のための最適な条件を見出しているとともにこれらの構造を再現性よく得ていることから、今後の進展が期待できる。 B.コバルトテトラキス(1,2,5-チアジアゾール)ポルフィラジン(CoTTDPz)は強い分子間相互作用のために、ガラスやポリイミド基板上で明確な配向性は得られないが、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)薄膜をテンプレート膜としてガラス等の基板上に作成することにより、そのテンプレート上に高配向性のCoTTDPz薄膜を作成することに成功しており、分子間相互作用の強い系における薄膜構造制御に冠する指針を得ている。
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